第556話 桃太の奮戦と気づき
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「モンスターとのフィジカル差は術で補う。人形ゆえにどこまで生態を模しているか知らないが、粘膜から呪いをこめたアルコールを摂取するのはキツイだろ!」
「GAUUUU(製作者のこだわりがにくいい)!?」
ベテラン冒険者の呉栄彦は、遊戯用迷宮〝U・S・J〟の地下二九階で遭遇した、全長三メートルに達するシロクマ人形を相手に互角の殴り合いを演じていた。
「栄彦さんは、あんな巨大なシロクマ人形相手に正面から戦えるのか? 助けに行くためにも、乂から学んだプロレス技を喰らえ!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、空飛ぶサメに変身したものの寒さで動けなくなった建速紗雨と、蒸気鎧を修復中の呉陸羽を守るため、槍を持った雪だるま人形一〇体と交戦――。
「SNOWSNOW( シロクマ親分がカッコいいのはわかるが、他人の心配をする余裕が……うわあああ)」
衝撃波を巻き付かせた足のスピードを活かして槍をパキンと蹴り砕きながら、雪だるまの首元に腕を巻き付かせ、フライング・ネックブリーガー・ドロップを決めた。
「お次はシザースローだ。蟹挟みは地球の柔道だと反則技だけど、他の格闘技なら許されているからね」
「SNOWSNOW( こいつ手慣れてる、あばばば!?)」
颯爽と一体を氷原に沈めた桃太は、勢いのままに下半身を投げ出すように跳躍。左手から衝撃波を発して、氷面に杭のごとく打ち付けて体重を支えながら、二体目の雪だるまの接合部に両足を引っかけて投げ崩した。
(ああなるほど、そういうことか)
桃太は極地での戦いを経て、自身と栄彦の戦闘スタイルの違いを意識した。
「俺は〝鬼術〟を打撃のサポートに使うけど、栄彦さんの場合、打撃を〝鬼神具〟の補佐に使っているのか」
「ご名答! この〝鬼神具・酒虫水瓶〟は、オジサンの戦闘スタイルにバッチリの、欠かせない相棒なのさ」
栄彦はスキットルの中にある液体をラッパのみしながら、シロクマ人形の爪攻撃を、ふらふらとよろめく千鳥足で避けた。
「桃太君、酒虫っていうのは、大酒飲みに取り憑く妖怪とも、酒を作り出す菌の具現化とも、あるいは福の神ともされる怪異でね」
赤ら顔の酔っ払いは解説しつつもカウンターとばかりに、獣の体重を支える四本の足に鋭いローキックを浴びせて体勢を崩し、落ちてきた顎を肩でかちあげて、鼻に肘を叩きつける。
「酒は人間にとっては百薬の長だが、動物や鬼にとっては毒にもなり得るのさ。大蛇退治や酒呑童子討伐の伝説は知っているかい?」
「GUUUUUU( 酔いが、酔いが回る。こいつ攻撃のたびに酒をふきかけていたのか)!?」
さらに栄彦は指を鳴らすや、指先から空中に火の粉をばら撒いた。
「さあさ。大道芸をごろうじろ、ってね!」
そこへ口に含んだ高濃度の酒を吹きかけたからたまらない。
栄彦の口元から、まるで火吹き芸のごとく広がった炎は、アルコールの染みついたシロクマ人形の毛皮にも燃え移り、白い氷原を赤く照らし出した。
「GAAAAA( こ、こいつ。信じられん)」
幸いにも、凍てつく風によってすぐ鎮火したものの、シロクマ人形の毛皮は真っ黒に染まって甚大なダメージを与えたようだ。
「どうよクマさん、アンタも温まってきただろう?」
「GA、GAAAAA( おのれ自慢の毛皮を燃やしたツケ、はらってもらうぞ)」
桃太は栄彦の戦う様子をみて、亡き親友、呉陸喜とのスパーリングを思い出した。
「ああっ、見覚えがあると思ったら、栄彦さんの戦い方はリッキーが得意としていたナイフ格闘と同じだ。最初から〝鬼術〟との連携を視野に入れた格闘術なのか!」
あとがき
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