第554話 鬼神具 酒虫水瓶
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「GAAAA( 冒険者よ、よくぞここまで来た。その力、我が精鋭、雪だるま部隊で見極めさせてもらうぞ!)」
「「SNOWSNOW( シロクマ親分、かっけーっす!)」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、遊戯用迷宮〝U・S・J〟の地下二九階の寒さで足が止まったところを、全長三メートルに達する一体のシロクマ型の人形と、槍を持った一〇体の雪だるま人形に見つかってしまう。
「くそ、相手はデカイ熊に、長柄使いの雪だるまか。リーチ差が厄介だっ」
普段の桃太であれば、たとえ間合いの差があっても、高い回避能力と踏み込みの速さで覆すことだろう。
されど歩くだけで足が凍りつく氷面では、移動もままならない。
「そうだ、桃太おにーさん。紗雨を使うんだサメエ。〝行者〟に変身できなくとも、必殺サメバットでホームラン、サメエ」
空飛ぶサメに変身した銀髪碧眼の少女、建速紗雨は、半ば凍り付いた自分を棍棒代わりにして戦うよう桃太に願ったが……。
「ごめん、紗雨ちゃん。そんな危ない真似はさせられないよ」
「ですよねっ。お願い、鎧よ動けええ」
「桃太おにーさんやリウちゃんのそういうところ好きだけど、万事休すサメエ」
桃太は受け入れられず、もう一人の少女、呉陸羽も身につけた蒸気鎧がエンストして動けず、紗雨は半ば冬眠状態と、三人はゲームオーバーを待つばかりだ。
「GAUUUU( なんだつまらん。出直せカップルども)!」
「ま、まさか寒さに負けるだなんてっ」
桃太は、戦闘不能になった紗雨と陸羽を守ろうと、凍りついた両足を無理やり動かすものの、もはやここまでかと諦めかけた。
シロクマ人形がブルドーザーのように氷原に白煙をたてながら襲来し、鋭い爪を振り上げたまさにその時――。
「いよっと、ここはオジサンの見せ場かな?」
間一髪、逸れていたベテラン冒険者の呉栄彦が駆けつけた。
「GAU( なにいっ)!?」
「クマらしい。なかなかに重たい一撃じゃないか!」
栄彦は、〝黒鬼術師〟という後衛職にも関わらず、シロクマ人形の鋭い爪を、赤い山椒魚のような虫が描かれた金属製の水筒で受け止める。
これまでも奇妙な頑丈さを見せていたスキットルだが、巻き込んだ氷山すら粉砕するシロクマのパンチが直撃してなお、傷一つついた様子がなかった。
「栄彦さん、ひょっとしてそのスキットルは〝鬼神具〟じゃありませんか? たびたび口にしていた〝頼れる事情通〟の正体もそれだったんじゃ!?」
「おやおや、もう少し秘めておきたかったが、桃太君にはバレていたかい?」
栄彦は鼻をかいて、照れくさそうに微笑んだ。
「四鳴啓介が率いていた元勇者パーティ〝SAINTS〟との戦いで偶然手に入れたんだが、こいつはクマ国の酒神サケトケノカミが作った水瓶でね。〝酒虫水瓶〟って名前の〝鬼神具〟なんだ」
「GAUUUU( なんだとぅ)!?」
シロクマ人形はガムシャラにラッシュを繰り出すものの、栄彦は水筒を盾に円を描くような動作で受け流してみせた。
「契約を交わした私としか意思疎通が出来ないのが残念だが、長生きだけあって色々と物知りでね。クマ国の過去も教えてもらったんだ」
栄彦は胸を張って解説するや、スキットルの中身を自身の顔面にぶちまけ、桃太の鼻先まで香るほどに濃厚なアルコールを浴びるように飲んだ。
「さあ飲酒解禁だ、そろそろ本気を出すとしよう。舞台登場 役名宣言――〝修道鬼〟!」
あとがき
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