第54話 黒山の切り札
54
クマ国軍の優勢とテロリスト達の劣勢を決定づけた分水嶺において、両軍指導者の態度は目に見えて対照的だった。
「カムロ様が切り開いてくださったぞ。航空部隊は丸太を落とせ、投石機部隊は砲撃を始め、他の隊は矢をつがえるのだ」
「侵略者どもを追い払え!」
白馬にまたがった老軍人の指揮に従い――
翼の生えた鳥人たちが爆撃し。
いかにも体格の良い角が生えた鬼人達が、石の砲撃を重ね。
その他の妖怪達が火を吐き、風の刃を投げ、矢を浴びせかる。
――と、クマ国の軍勢が、空陸からアウトレンジ攻撃に徹したのに対し。
「そら走れ、殺せ。できなければ後ろから撃つぞ」
「か、かくめいばんざ、うぎゃああっ」
黒山が煽る、元勇者パーティ〝C・H・O (サイバー・ヒーロー・オーガニゼーション)〟の冒険者達は、味方からの攻撃に怯えながらてんでばらばらの方向に走り出すと、さながら案山子も同然だった――。
「黒鬼術士隊第三班は、〝不運にも流れ弾に当たった負傷者〟を回収しつつ、隣の白鬼術士隊第二班と合流し、後退する」
呉栄彦は、遂に黒山を見限った。
四人の部下と、黒山が義足に仕込んだ銃に撃たれた団員を戦場から逃そうと、付き合いの長い同僚、東平孔偉が率いる白鬼術士班に協力を要請したのだ。
「おれも内心じゃ逃げたいが、いいのか? 黒山の命令は全員突撃だ。あいつは弘農首相の部下だった頃から、パワハラとモラハラで悪名高いんだ。命令違反をすれば革命精神に欠けると処罰の対象になる。特に栄彦は親戚の件で目をつけられているから……」
「孔偉、気遣いは無用だ。陸喜は正しかった。呉一族の誉れだよ。迷宮内の戦いや、あるいは山岳戦でもチャンスはあった。平地で要衝に向かって無策突撃だって? 黒山みたいに無能な指揮官の下で戦闘ができるか。じきに規律も無くなって瓦解するぞ!」
栄彦の戦況分析は半ば正しく、半ば間違っていた。
「いやだ、もうこんなのたえきれない」
「総括なんて知ったことか。とうさん、かあさんっ」
総括を大義名分とした私刑という恐怖に縛られた軍勢が、それ以上の恐怖に耐えられなくなるのは当然だろう。
冒険者達は、黒山の銃撃など知ったことかとクマ国の軍に背を向け、異界迷宮の出入口がある山に逃亡をはじめた。しかし――。
「おっと、ここから先は通行止めです」
突出した冒険者達の背後には、すでにアカツキが率いる鳥人部隊が回り込んでいたからだ。
「栄彦、こっちにも来るぞ。迎撃頼む!」
「孔偉も無茶を言う。外道な上官の目に入らないよう、倒れた友軍を守りつつ撤退だって? ハードルが高すぎるぞ!」
呉栄彦と、東平孔偉の班は決死の覚悟で、難題を乗り越えようとした。
されど、元々高過ぎたハードルは、予想外の事態により更に跳ね上がった。
「臆病者は反革命分子だ。ならば容赦は不要、この世から追放する。あの女から貰った〝鬼神具〟、〝悪魔の四輪車〟の力を見せてやる。さあ、ブエルよ。エサの時間だ!」
「ぎゃああっ」
「A AAAAA」
黒山犬斗が赤く輝くナイフをかざすと、彼の腰掛けた四輪車がミシミシと音を立てながら、車を引くトカゲに食らいつき、姿を変えはじめたからだ。
「舞台蹂躙、役名変生――〝ブエル〟。GAAAAAA!!」
四輪車は、獅子の頭を中心に山羊の足を支柱とする、全長五メートルはあろう〝車輪鬼〟となって、栄彦や孔偉をはじめとする〝C・H・O〟の団員達を襲い始めた。
「黒山め、最初から私達を……」
「生贄にするつもりだったのかよ!?」
「グヒャハハハハ。ブエルよ、存分に喰らうがいい。バケモンにはバケモンをぶつけないとなあ!」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)