第553話 地下二九階、極寒の試練と大ピンチ?
553
「なにこの冷凍庫!?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、遊戯用迷宮〝U・S・J〟の地下二九階に踏み込んで愕然とした。
眼前には床がつるつるに凍りつき、壁が霜で全面覆われ、天井からは鋭い氷柱が何本も生えている、真っ白な光景が広がっていたからだ。
「つめたああい、サメは寒さにも強いけど、紗雨はそうでもないんだサメエ」
サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨は太ももがむき出しになっているせいか、寒さのあまりジタバタと跳ね回り――。
「ううぅ、寒いです。温めないと」
白く分厚い蒸気鎧を着た少女、呉陸羽も、装甲の隙間から吹き込む寒風がクリーム色の戦闘服を冷やすのか、三つ編みに結った山吹色の髪を首に巻き付けながら体をすくめている。
「ともかく、慎重に前へ進もう。滑らないように注意して、と」
桃太が湯気のような息を吐きながら、おそるおそる一歩踏み出すと、驚くべきことに足が靴ごと凍りついた。
「なんですとおおおっ」
桃太はわたわたと不器用なダンスを踊りながら、前へと滑り出してしまう。
「危ないっ。桃太お兄様、つかまってください」
幸いにもホバー走行可能な陸羽が追いつき、桃太の手を引いて助けに入ってくれたのだが――。寒すぎた環境ゆえか、蒸気鎧のエンジンも乾いた音をたてて停止し、すってんころりんと転んでしまう。
「リウちゃん、危ない」
「桃太お兄様っ」
桃太は鎧の重さにも負けずに陸羽を胸中に引き寄せるものの、二人は抱き合ったまま尻餅をついて、スライディングを始めてしまう。
「うわぁあ、滑る、滑る」
辿り着く場所すらわからないままに滑ってゆく、二人を見ていられなかったのだろう。
「桃太おにーさん、リウちゃん、紗雨につかまるサメっ。あっちにチェックポイントらしいお宮があるから、あそこまで頑張ろうサメエっ」
紗雨が銀色の空飛ぶサメに変身して救助しようとしたのだが――。
「あれ、体が動かないし、眠いサメエ。きゅう」
「「紗雨ちゃんが、冷凍マグロみたいになっちゃったー!?」」
サメ姿の紗雨はサメ肌がペリペリと凍りついて、二人の場所へ辿り着く寸前に落下してしまい、桃太と陸羽は慌てて受け止めた。
「こ、これはまずい。紗雨ちゃんが冬眠していちゃあ〝行者〟への変身もできない」
「うちも蒸気鎧が動かないと戦えません。こんな時、襲われたらひとたまりもありません」
悪いことは重なるもので、泣きっ面に蜂がさすとばかりにトラブルは終わらない。
地下二九階が意図した迷宮構成なのかも知れないが、氷のフロアを徘徊するお邪魔虫人形達が襲ってきたのだ。
「GAAAA( 冒険者よ、よくぞここまで来た。その力、我が精鋭、雪だるま部隊で見極めさせてもらうぞ!)」
「「SNOWSNOW( シロクマ親分、かっけーっす!)」
あとがき
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