第551話 火神に告白したのは誰?
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「リウちゃん、〝白騎士〟使いこなせるようになったんだね」
「はい。桃太お兄様と一緒に迷宮探索をするために!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は白い蒸気鎧を身につけた後輩、呉陸羽を抱きしめて、三つ編みに結った山吹色の髪をくしゃくしゃと撫でた。
クマ国入国前に、彼女が装着しているところを目撃してはいたものの、やはり不安だったのだ。
「オジサンとしては、鎧はともかく防護服……ピチピチのインナーはどうかと思うけどね」
「ああっ、恥ずかしいんですから、言わないでくださいっ」
叔父であるベテラン冒険者、呉栄彦が指摘すると、陸羽は無骨な鎧の内側に着込んだ体のラインもあらわなクリーム色の戦闘服が気になるのか、羞恥で頬を赤く染めた。
「そういうところ、リウちゃんはもっと気にするべきサメエ」
サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨はここぞとばかりに茶化したものの――。
「紗雨ちゃんなんて、サメに変身したらすっ裸じゃないですか」
熟練の漫才コンビもかくやといわんばかりの速度で、陸羽に返された。
「ははは」
桃太は思わず頬を綻ばせた。
やいのやいのと張り合っているが、紗雨と陸羽も冒険を通してずいぶん仲良くなったようだ。
「やっぱり、光があると探索がはかどるね!」
「えへへ、うちもお役に立てて良かった」
こうして、桃太達は遊戯用迷宮〝U・S・J〟の地下二八階の暗闇迷路を抜けて、夕刻には地下二九階へ続く扉へと到達した。
『問題です。火神ヒノカグツチと結ばれた妻神を描いた壁画の写しを、以下の百枚からすべて選びなさい』
「「「そんなのわかるかあっ!?」」」
されど、待ち構えていたのは更なる難問だった。
「クマ国神話はただでさえ女性神が多いのに、この中から選ぶのは無理サメエ」
「と、とりあえずスサノオの奥さんらしい女神は除外しよう」
「じゃあ、それっぽいひとを抜いて、絵ごとにグループ分けしましょう。それでも候補が二〇人以上もいるっ……」
桃太達三人は選んだものの、ことごとく外れてしまう。
「これは解けなくても無理はない。火神ヒノカグツチにナンパなエピソードが多いが、同時に身寄りのない子供達を引き取って育てるなど、父性に溢れる人物だったようだ。そして、彼の冒険の終わりは以下のように描かれている」
最後の一人である栄彦は、人生経験の差か、あるいは結婚済みの余裕か? まるで動じることなく、解答となる女神を探していた。
「〝頼りになる情報通〟曰く、火神ヒノカグツチが育てた子供達の中から、やがて最強の名を継ぐ娘、雷神タケミカヅチが成長した。彼女は養父に告白したんだが、自分が育てた子供とは付き合えないと袖にしたそうだ」
「まあ、それはそうでしょう」
桃太はうんうんと頷いたが、これが今度は予期せぬ方向に飛び火した。
「「ひ、ひょっとして……い、妹ってまずい(サメ/のでは)?」」
紗雨と陸羽が妹分であるという自分の立ち位置を顧みたからである。
「だが、雷神タケミカヅチはとんでもない奇策で、障害を乗り越えたらしい。スフィンクス、解答を選んだよ。この一枚だ」
栄彦が選んだ壁画の写しには、日本刀のような刃物を前に向かい合う、双子らしき女神が描かれている。
『正解です。さすがに解説が必要なので補足しましょう。愛する火神ヒノカグツチを諦めきれなかった雷神タケミカヅチは、持ち込んだ刀を触媒に分身。もう一人の自分自身である剣神フツヌシを出現させ、二人がかりでプロポーズして、寝室で二人との結婚を認めさせました』
「「「持ち込んだ刀を触媒に分身ってなんだよ(サメエ/ですか)!」」」
あとがき
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