第550話 アイ・オブ・ゴルゴーンと蒸気鎧の真価
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「桃太お兄様、大丈夫です。〝蛇髪鬼ゴルゴーン〟の力を再現します。これが、うちの切り札っ。〝停止の視線光〟です!」
〝白騎士〟への変身を遂げた少女、呉陸羽の目からビームのような光が放たれるや、それを受けた黒狼は、石化でもしたかのように一切の動きを止めてしまった。
「GYAAAAAA( 体が動かない? おいおいおい、初見殺しにもほどがあるだろう!?)」
「切り札はピンチの時こそ使うのですっ」
陸羽は、硬直した黒狼のぬいぐるみを、馬の蹄に似たU字型の刃で仕留め、崩れた体勢を立て直す。
彼女の活躍によって、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太達を包囲していた黒狼の群れのうち、前方集団は完全に瓦解した。
「「GAAAA( や、ムチャしやがって。仇は討つぞ)」」
「「GAAAAAA( 石化ではなく硬直だし、攻撃鬼術が制限される〝遊戯用迷宮〝U・S・J〟の中じゃ、そんな大技は連発できるまい)」」
右側を迂回してきた獣達が、前衛の穴を埋めるべくなだれこんだものの……。
「「GYAN( か、かたぁい)」」
とびかかったぬいぐるみの牙は、少女を守る厚い装甲によって弾き返された。
「白騎士の役目は本来、防衛役。生半可な攻撃じゃびくともしません」
一方の陸羽は、白い蒸気鎧が生み出すパワーをつかい、分厚い金属籠手で狼達の頭を掴んでバッタバッタと投げ飛ばし始めた。
「「GYAAAA( はやくてかたくてつよいなんて、反則じゃないかー)」」
「「GAAGAA( まだだ。まだ頼れる仲間達が、……あれ、いないぞ?)」」
このように陸羽が自力で危機を乗り越えていた頃――。チームメイトである桃太達も黙って見ていたわけではない。
「陸羽ちゃん、啓介さんに操られていた時の技まで使えるようになっていたのか? くーっ、目からビームだなんて、カッコいいじゃないか。俺も使いたいっ。我流・直刀」
桃太は彼女が突貫して作り上げた隙を逃さず、無防備な横腹をさらす獣の軍勢に対して一転攻勢に出て、後方から襲ってきた黒狼の群れを蹴り倒し――。
「四鳴家がリウに押し付けた〝蛇髪鬼ゴルゴーン〟の力か。啓介達の所業は許せないが、リウが自分で使うことを選んだのなら受け止める」
陸羽の叔父であるベテラン冒険者の呉栄彦も素面ながら、酔っ払いの千鳥足めいた歩法でぬるりと間合いを詰め、肘打ちから、肩、裏拳へと繋ぐ、連続攻撃で、左側面から飛びかかってきた獣たちを撃退――。
「やばいサメ。とってもヤバいから、せめて狼さん達をボコボコにするサメ。リウちゃんには、色んな意味で負けていられないんだサメエ」
サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨はどっちが肉食獣かわからない焦燥混じりの獰猛な顔で、逃げ惑う黒狼達を水のドリルで追撃した。
「「GYAA( そんなあ、あんまりだああああ)!?」」
こうして、桃太達は迷宮の地下二八階を徘徊する黒狼の群れを撃滅し、陸羽の蒸気鎧がもたらすライトを得て、暗闇フロアを探索する目処もたった。
「リウちゃん、〝白騎士〟使いこなせるようになったんだね」
「はい。桃太お兄様と一緒に迷宮探索をするために!」
あとがき
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