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第547話 火神ヒノカグツチのヒーロー譚

547


『一千年前の八岐大蛇との戦いにおいて、最も多くの竜を討った神を描いた壁画の写しを、以下の百枚から〝すべて〟選びなさい』

「「ぎゃあ、遂に正解枚数までわからなくなった!?」」


 額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太いずもとうたは、遊戯用迷宮〝U・S・Jウメダのすごいジャングル〟の地下二七階フロアボスたるスフィンクス人形まで辿り着いた。

 人間の上半身と獅子の下半身を持つ神獣は、これまでのように百枚の絵を空中に並べるが、遂には枚数のヒントすらなくなってしまった。


(でも待てよ。一昨日、図書館で調べたから、わかるんじゃないか?)


 難易度が更にあがったものの、桃太は今回ばかりは自信があった。


「スフィンクス、答えを言うよ。炎の翼、この強そうな火が背景で燃えてるひと、火神ヒノカグツチだ」


 桃太は空中に展開された絵図の中から……。


 マントのような炎の翼をまとった男が、竜の軍勢を徒手空拳で蹴散らす壁画。

 カワウソのような小動物と、湯気の立つ食事を巡って取っ組み合いの喧嘩をする壁画。

 さらにその後を描いたのか、大きな狼に一人と一匹、揃ってお尻を噛まれて飛び上がる壁画。


 という三枚の絵図を掴みとると、スフィンクスに見せた。

 仲間達が固唾を飲んで見守る中……。


『正解です』


 ガシャンという音を立てて、地下二八階へ続く扉が解錠された。


「すっごい。難しくなったのに、桃太おにーさんは解けたサメー!」


 銀髪碧眼ぎんぱつへきがんの少女、建速紗雨たけはやさあめはかぶったサメの着ぐるみのしっぽをふりながら、喜びの声をあげ――。


「意外性のある絵にも惑わされない。さすがは桃太お兄様。頼りになります!」


 山吹色の髪を三つ編みに結った少女、呉陸羽くれりうは両手で万歳のポーズをとり、彼女の叔父であるベテラン冒険者の呉栄彦くれはるひこも片目をつむって親指を立てる。


「桃太君、よく正解してくれた。クマ国神話と日本神話で女性神が違うのは昨日話した通りだが、男性神の逸話もまったく異なるんだ。日本神話では誕生と共に母殺しの大罪を犯し、扱いのよくない火神ヒノカグツチも、クマ国神話では喜劇あり悲劇あり恋愛劇ありのヒーローとなっている」

「ええっ、ヒーローですか?」


 栄彦が赤い山椒魚に似た虫の描かれたスキットルを片手に解説を始めたところ、桃太はヒーローという思い入れのある単語を聞いて、ずいと上半身を乗り出した。


「そうだ。壁画に描かれた絵こそコミカルだが、立派なヒーローだよ。

 クマ国神話における火神ヒノカグツチは、内政に専念したスサノオの依頼を受け、名前は残っていないカワウソの神や、狼の神オオクチノマガミとチームを組んでクマ国中を旅して回るんだ。

 ゲストヒロインと出会う→名のある悪竜を討つ→結末はなにやかやで振られる。

 というお約束の展開が大半だが、各地で竜退治を繰り広げている。火神のヒノカグツチの討伐数は、神々の中でも頭ひとつぬけていると言っていい」

「おおーっ」


 桃太は、栄彦の語る火神ヒノカグツチの解説にも興味津々だった。しかしながら、女性陣にとってはそうでもないらしい。


「スサノオさんに続いて、またまたナンパな神様の登場サメエエ」

「紗雨ちゃん、冒険者パーティ〝W・Aワイルド・アドベンチャラーズ〟もあんまり人のこといえないよ。ね、桃太お兄様!」


 紗雨と陸羽は軽口を叩き合いながらも、鋭い視線を向けてきたが……。


「そうだね。いつかは並びたいものだ」


 二人の獲物を狙うような目を自覚してなお、桃太はひょうひょうと受け流した。


「さあて、いよいよ地下二八階。次のフロアはどんな仕掛けが待っているのかな?」

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― 新着の感想 ―
そうか、カグツチは某フーテンの人だったのか(違
>ゲストヒロインと出会う→名のある悪竜を討つ→結末はなにやかやで振られる。 部長「お嬢さん、どうか一晩の愛を」 某長女A「全く、私というものがありながら」 某長女B「そうです、あの方の伴侶にふさわしい…
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