第543話 智神オモイカネの性癖と功績
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「「「ヒントが参謀だけじゃわかんないよ」」」
西暦二〇X年八月二九日夕刻。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、サメの着ぐるみをかぶる銀髪碧眼の少女、建速紗雨、山吹色の髪を三つ編みに結った小柄な少女、呉陸羽。
三人が探索中の、遊戯用迷宮〝U・S・J〟の地下二六階と地下二七階を繋ぐ門を守る半人半獣のスフィンクス人形に対して、思わず抗議の声をあげた。
『一千年前の八岐大蛇との戦いにおいて、神々の参謀を勤めたとされる智神オモイカネが描かれた壁画の写しを、以下の百枚から四つ選びなさい』
という問題だったが、それっぽい格好の人物を選んでも、ことごとく外れたからだ。
「……ふむ。〝頼れる事情通〟から聞き出した話と、先の図書館で調べた文献を鑑みるに、智神オモイカネの絵は、この四つかな」
が、一行の最後のチームメイトである陸羽の叔父、呉栄彦が、赤い山椒魚のような虫が描かれたスキットルを左手に握りながら右手で選びとった絵には、まるで参謀の条件を満たしていなさそうな――薄衣を着た半裸女性が描かれていた。
『正解です』
「「「なんでええっ!?」」」
スフィンクス人形が厳かに告げた時、桃太達は驚かずにいられなかった。
「一〇〇歩譲って、宴の席はまだ理解できますよ。でも、神殿で、工事現場で、街の雑踏の中で、色んなものが見えてそうなこの姿はないでしょう?」
「さ、紗雨ちゃん。クマ国には、ヌーディストビーチ的な街があるの?」
「なにそれ怖い。知らないサメエ!?」
いくら地球とクマ国の常識が違うといっても、想像もしなかったからだ。
「日本神話においては思慮深いアドバイザーとして知られる智神オモイカネの神だが、クマ国神話では出てくるたびに衣装を脱ぐ、色気たっぷりの女性として描かれている。そりゃあもうデイリーボーナスと言わんばかりに、登場と同時に脱ぎまくるんだよ」
「「へ、へんたいだあ」」」
有り体に言って、ヤバい人物である。
「三人ともそう思うだろう? ところがクマ国の里を結ぶ〝転移門〟や、クマ国各地で見られる逆ピラミッドに似た浮遊建築物……〝鬼の力〟を浄化し、霊脈をコントロールする〝空中神殿〟といった重要インフラを整えたのは、彼女みたいだ。
智神オモイカネは二度目の八岐大蛇との戦いでは、スサノオ達に様々な作戦を提案して勝利に貢献し、戦後も高天原に帰る前に多くの知識をクマ国民に授けたと伝わっている」
「「「まさかの偉大だった!?」」」
クマ国は、一千年前、二度に亘る八岐大蛇の侵略を阻んだものの――。
残された〝鬼の力〟の悪影響で今なお機械が使えず、道路や鉄道をひけない荒廃した土地も多い。
二度目の戦いの際にクマ国を訪れた神々の一人、智神オモイカネは、移動を手助けし、大地の浄化や、地球との連絡手段〝遠隔通神〟まで可能とする、超常技術の基礎を作り上げたらしい。
(クマ国の反政府組織だけど、何度か俺たちに手を貸してくれた〝前進同盟〟のリーダーであるオウモさんも、ひょっとしたらオモイカネにあやかって名付けられたのかも知れないな)
個人の性癖をさっ引いていも、とんでもない偉業である。
「桃太君。これまで解いてきたスフィンクスの問題をみても、クマ国神話と日本神話が異なることは間違いないようだ。登場する神々も名前こそ同じだったり似ていたりしても、ほぼ別物と言っていい」
「確かに……。これまで聞いただけでも、クマ国神話は独特です」
桃太は栄彦から、今日一日スフィンクスから投げかけられたクイズについてまとめられ、なるほどと首を縦に振った。
「栄彦さん。迷宮運営者の田楽おでんさんは、なんらかの意図があってクマ国神話を紹介する設問を用意したのでしょうか?」
あとがき
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