第542話 地下二六階、クマ国地底植物コーナーでの休息
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「スサノオさんもカッコいいですが、うちにとっては、桃太お兄様が一番カッコいいです!」
「て、照れちゃうなあ」
「サメエエ!?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太桃太は、山吹色の髪を三つ編みに結った小柄な少女、呉陸羽に持ち上げられて破顔した。
「リウちゃん、素直なのに強敵だサメエ。ま、負けてるサメエ」
サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨が、顔を白黒させていたものの、桃太はうっかり見過ごしてしまう。
(俺は、師匠のカムロさんから授かった技を翻案した〝生太刀・草薙、砲車雲 〟 で神鳴鬼ケラウノスを倒し、陸羽ちゃんを助け出すことができた)
カムロが知識を受け継いだという、一千年前のスサノオも似たような技を使えたのだろうか? そう過去に思い馳せていたからである。
「オジサンが〝頼れる事情通〟から聞き出した情報で補足すると、高天原から来訪した神々は、創世神カミムスビやクマ国の住人に協力して八岐大蛇の軍勢と戦い、最終的には追い出すことに成功し、元いた世界へと帰還したそうだ。リウが正解してくれたから先へ進もう」
西暦二〇X年八月二九日午後。
桃太一行は、陸羽の叔父であるベテラン冒険者の呉栄彦にうながされ、遊戯用迷宮〝U・S・J〟の階段をまた一つ降りた。
地下二六階は、休憩フロアなのだろうか? 地下植物が生い茂るひんやりとした洞窟だった。
お茶をお盆に載せたカラクリ人形が近づいてきてフロアを案内してくれる。
「ここは、博物館出張コーナーです。菌類やシダ類をはじめ、迷宮に生える植物を展示しています。私のようなお茶を淹れるゴーレムもいるので、ご自由にお声がけください」
「サメエっ。休暇フロア、こういうのを待っていたんだサメエ」
紗雨はテンションが上がったのか、空飛ぶ銀色のサメに変身してふよふよと散策を始めたが……。
「リウちゃん、さっき足元を濡らしたからね。転ばないように手を握って」
「はい」
「しまったサメエエ。一緒に歩くサメエエ」
桃太が陸羽と手を繋ぐ様子を見て、またも引き離されてはたまらないと、慌てて変身を解いた。
「若いっていいなあ。それはそれとして、この展示は見逃せない。新しいカクテルの刺激になるかも知れない」
その後四人は、クマ国固有の植物を楽しみながら意気揚々と探索を続行。
「クマ国の植物は地球と似ている部分もあるけれど、色合いなど多くの面で違いますね。特に、動物と植物の境界が曖昧なのが興味深い」
「桃太お兄様。この赤い花、蝶のように羽が生えて飛ぶんですね。可愛いです」
「なんとも驚くべき世界だ。地球の環境活動家もどきに、彼らが盲信する非常識を押し付けられたら、そりゃあカムロさんも怒るよなあ」
「紗雨はむしろ、地球に行ってびっくりしたサメエ」
桃太達は存分にリフレッシュしつつ、日の沈む時間には、地下二六階と地下二七階を繋ぐ扉までたどり着いた。
が、いよいよ残り五階とあって、スフィンクス像が出した問題が難しかった。
『問題です。一千年前の八岐大蛇との戦いにおいて、神々の参謀を勤めたとされる智神オモイカネが描かれた壁画の写しを、以下の百枚から四つ選びなさい』
桃太ら四人は空中に映し出された一〇〇枚の絵を見て相談、それぞれの解答を導き出した。
「やっぱりメガネっぽい飾りをつけたこの男性じゃないか?」
最初に桃太が、インテリっぽい雰囲気を漂わせる細マッチョな男神の絵を四枚選ぶが、……失敗。
「むう。こういうのは、細身のひとじゃないかサメエ?」
次に紗雨が、いかにも知性に溢れていそうな中性的な神の絵を選ぶが、これも駄目。
「案外、このメイドっぽい女性かもしれませんよ」
『次の方どうぞ』
続けて陸羽が、先ほどスサノオの絵に登場していた、地球の侍女に似た印象の女神を選んだが、これまた不正解。
「「「ヒントが参謀だけじゃわかんないよ」」」
あとがき
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