第541話 武神スサノオの助太刀
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『問題です。一千年前、創世神カミムスビが一度は退けたものの、八岐大蛇が再び大軍団を率いて侵略してきました。この時、高天原からもっとも早く助けに駆けつけたとされる武神。彼を描いた壁画の写しを、以下の百枚から四つ選びなさい』
西暦二〇X年八月二九日昼。
遊戯用迷宮〝U・S・J〟地下二五階最後の扉を守護するスフィンクス人形は、神々の絵を空中に次々と展開し、クイズを問いかけた。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太達が、神獣と絵の迫力に圧倒される中――。
「桃太お兄様、うちに任せてください」
山吹色の髪を三つ編みに結った少女、呉陸羽は怯むことなく進み出て四枚の絵を手早く選び取った。
「陸羽ちゃん、待ってくれ。
一枚目は、両手に剣を持ってスライムっぽいモンスターと向き合う絵。
二枚目は、どよめく群衆の前に立ちはだかって三味線をひく絵。
三枚目は、侍女や執事っぽい二人に怒られながら、鏡を前に服を選ぶ絵。
四枚目は、包丁を持った女性やタヌキっぽい妖怪と一緒に、湯気のたつ鍋を囲む絵。
リウちゃんが選んだ絵の中心にいる人物は、とても武神には見えないよ」
桃太は設問から離れた絵だと、陸羽を止めようとしたものの……。
「桃太お兄様、見てください。四枚の絵に揃っている方は、カムロさんと同じ、牛頭に似た仮面をかぶっているように見えませんか?」
「あ、そっか!」
陸羽の判断材料を聞いて、なるほどと思い直した。
「ウメダの図書館で調べたところ……。
創世神カミムスビさんは、八岐大蛇と鬼の軍勢に追い詰められた時、天に祈りを捧げて神の国たる高天原に助けを求めました。
その時、神の軍勢を率いてクマ国へ助けに馳せ参じたのが、竜殺しで名高い武神スサノオさんです。彼は一刀の元に、万のドラゴンを蹴散らしたそうです。
スフィンクスさん、うちが選ぶ絵はこれです」
陸羽の迅速果断な回答を聞いて……。
『正解です。武神スサノオの助力で窮地を脱したカミムスビは、八岐大蛇から奪い返した魂に動植物や人間の肉体を与え、色とりどりの生命で純白の世界を彩ってゆきました。ここから我々の生きる世界、クマ国が始まります』
人間の上半身と獅子の下半身をもつスフィンクス人形は、閉ざされていた地下二六階への道を開いた。
「まさかの即答なんて、すごいじゃないかっ」
「リウちゃん、お見事サメエ!」
桃太は力いっぱい拍手し、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨も抱きつく。
「頑張りました!」
紗雨は陸羽をよしよしと撫でつつ、育ての親であるカムロに似た壁画の写しをいちべつし、形の良い胸をはって鼻を鳴らす。
「同じように仮面をかぶっていても、逸話を聞くとスサノオさんはカッコいいサメエエ。ジイチャンとは全然印象が違うサメエエ」
されど桃太は、いくらカムロの養女といえ、紗雨の反応に同意できなかった。
「紗雨ちゃん、カムロさんもカッコいいと思うよ」
師匠のカムロは、同じ道を歩めないと知ってなお、桃太にとって輝く存在だったからだ。
「むーっ。桃太おにーさんはジイチャンをかいかぶりすぎなんだサメエ」
紗雨は桃太にイーと顔をしかめてみせたが、彼女の腕中に抱かれた陸羽がとんでもないことを言い出した。
「スサノオさんもカッコいいですが、うちにとっては、桃太お兄様が一番カッコいいです!」
「て、照れちゃうなあ」
「サメエエ!?」
あとがき
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