第540話 心の弱みを突く罠!?
540
(俺は、迷宮最奥まで辿り着いた場合、賞品としてクマ国代表のカムロさんが目論む「地球、異世界クマ国、異界迷宮カクリヨの、三世界分離構想の阻止」をおでんさんに願うつもりだけれど……果たしてその願いは、おでんさん受け入れてもらえるものだろうか?)
西暦二〇X二年八月二九日昼。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、遊戯用迷宮〝ウメダのすごいジャングル〟地下二五階、湖を連想させる水場に張り巡らされた岩場の迷路を進みながら悩んでいた。
「おや、立て看板があるね。〝ここから東に二〇〇歩行くと銘酒があります〟か。ちょっと行ってくるよ」
「よく見て。途中で足場が途切れているサメエ」
「あんなところへ行ったら流されちゃう。おじさま、死んじゃいますよっ」
が、そんな風に集中を欠いていたのが、まずかったのだろう。
酒に目が眩んだベテラン冒険者の呉栄彦が、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨と、姪である山吹色の髪を三つ編みに結った小柄な少女、呉陸羽の制止を振り切って暴走し……。
「男には罠と知っても行かなきゃいけない時がある。だいたい遊園地で死ぬわけないだろーっ」
「命を安売りしないで。クマ国の基準は、地球と違いますよっ」
桃太が紗雨と陸羽に加勢することで、なんとか阻止に成功した。
しかし、トラブルはこれで終わりではなく、むしろ始まりだったのだ。
「〝ここから南に二〇〇歩行くとジンベエザメが泳いでいます〟って看板に書いてるサメエ。行ってくるサメエ」
「いけない紗雨ちゃん。どこから見ても罠だ」
その直後、紗雨が新たな誘惑にのり……。
「〝ここから西に二〇〇歩行くと恋愛成就百パーセントのハウツー本があります〟だそうです。一目読んでみたいので行ってきます」
「それもダメー!」
続いて陸羽までが、フラフラと道を外れたではないか。
桃太は必死で二人を連れ戻したものの、そんな彼の前にも立て看板が現れた。
「くっ。あれやこれやと悩んでいる場合じゃない。心を強く持つんだ。俺が簡単に誘惑にのると思うなよっ」
桃太がそう覚悟を決めて看板を見ると……。
書かれていた内容は、『ここから北に二〇〇歩行くとレアな蒸気鎧が置いてあります。ただし、〝巫の力〟の使用者は動かせません』というものだった。
「俺の時だけ、そもそも誘惑になってなーいっ!」
幸いにも心の隙を見抜いてくる罠はこれが最後だったが、ある意味でもっとも恐ろしいフロアだったと言えるだろう。
「体幹と自制心を鍛えるための訓練だったんだろうけど、歯応え抜群だなあ……」
「一歩間違えるとまな板の上にのっちゃう怖ろしい階層だったサメエ」
「は、恥ずかしい。桃太お兄様、やっと門が見えましたよ」
足場の悪さと誘惑に苦しんだフロアもいよいよ終わり、二五階最後の門を閉ざすスフィンクス人形が新たな問いを投げかけてきた。
『問題です。一千年前、創世神カミムスビが一度は退けたものの、八岐大蛇が再び大軍団を率いて侵略してきました。この時、高天原からもっとも早く助けに駆けつけたとされる武神。彼を描いた壁画の写しを、以下の百枚から四つ選びなさい』
あとがき
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