第536話 一千年前のクマ国創世
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「……桃太君は亡くなったリウの兄、陸喜と親友だったと聞く。二人が仲良くなって、きっと喜んでいるんじゃないかなあ。よし今夜は祝い酒だ。ウメダの里の地酒を浴びるほど飲むぞ!」
「ど、どうしてこうなったサメエエ」
サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨にとって予想外の悲劇こそあったものの……。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、山吹色の髪を三つ編みに結った亡き親友の妹、呉陸羽や彼女の叔父、呉栄彦と半日調べたことで、遊戯用地下迷宮〝U・S・J〟を探索する上で重要な、スフィンクスのクイズ問題に対してかなりの下準備をすることができた。
「いろんな資料をあたったけど、俺達が解けなかった〝クマ国創世に関する問題〟だけは、やっぱりよくわからないなあ」
「その問題については〝頼れる情報通〟がいて、対策があるからオジサンに任せて欲しい。明日になったら、さっそく探索再開といこうか」
日が明けて、西暦二〇X二年八月二九日朝。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太達は、お宮に似たチェック&ワープポイントをくぐり、地下二四階を途中から再度駆け抜けて、フロア最後の扉まで辿り着いた。
すると、人の上半身と獅子の下半身を持つスフィンクス型の人形が、前回と同じ質問を投げかけてきた。
『問題です。クマ国創世を描いたとされる壁画の写しを、以下の百枚から四つ選びなさい』
「よし、桃太君。約束通り、私が行こう」
桃太は、地下二四階最後の門を閉ざすスフィンクスが差し出した数々の絵に圧倒されつつも、栄彦の不敵な横顔を見てわずかな安心を覚えた。
「……栄彦さん。やはり、クマ国神話と日本神話も似ているのでしょうか」
桃太の質問に対し、栄彦は右手を無精髭に当てたあと、腰ベルトに挿した赤い山椒魚に似た虫の描かれた金属製水筒を見ながら、首を横一文字に振った。
「いいや、私も〝頼れる情報通〟から何度となく念を押されたが、二つの神話はやはり違うんだ。日本神話の場合、宇宙の中心たるアメノミナカノヌシが降臨し、その後、父神イザナギ、母神イザナミの夫婦による国生みの儀式へと繋がってゆく。しかし」
桃太達が固唾を飲んで見守る中、栄彦が選んだ壁画の写し四枚は、いずれも戦争が描かれたものだった。
「クマ国創世神話は日本神話と異なり、最初に八岐大蛇を筆頭とするドラゴンが来襲して、旧世界が滅ぶところから始まる。スフィンクス、私は回答を選んだよ。この四枚だ」
『正解です。先へお進みください』
結果は、大当たりだった。
「おおーっ、すごい」
「やったサメエ。栄彦さんって物知りサメエ!」
「おじさま、昨夜は宿でお酒ばかり飲んでいたけど、ちゃんと準備もされていたんですね!」
桃太、紗雨、陸羽の三人が両手をあげて喝采すると、栄彦は照れたように鼻の頭をかいた。
「地球では珍しい神話の導入形式だ。天地創造から始まるのではなく、戦争からスタートというのがいかにも異世界クマ国らしい、文化の違いを感じさせるよ」
あとがき
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