第535話 呉陸羽、呉栄彦合流
535
西暦二〇X二年八月二八日。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨は、異世界クマ国ウメダの里にある遊戯用地下迷宮〝U・S・J〟を踏破することを改めて決意した。
(師匠とはいえ、カムロさんに地球と異世界クマ国、異界迷宮カクリヨの三世界分離を実行させるわけにはいかない。その為に、おでんさんに力を貸してもらう)
(家族のことを知りたいんだサメエ。おでんオネーサンなら知っているかも知れないサメエ)
桃太も紗雨も、それぞれ難しい願いを抱えており、迷宮運営者の田楽おでんが約束した『地下三〇階の記念碑に到達した者には、可能な願いを叶える』という賞品に賭けていたのである。
されど、迷宮のフロアボスならぬ、クイズを問いかけてくるスフィンクス人形に苦戦。前へと進めなくなっていたのだが、ここで思わぬ助っ人が現れた。
「桃太お兄様、紗雨ちゃん。うちにお手伝いをさせてくれませんか? どうしても知りたいことが、ううん。叶えたい願いがあるんだ」
「私は高級酒を飲む為に、リウは陸喜……いや、部屋を借りるために最下層を目指しているんだが、どうにも苦戦気味でね。そちらは〝斥候〟に〝白鬼術師〟。こちらは、〝白騎〟、じゃなかった〝戦士〟に〝黒鬼術師〟とチームバランスもいいし、クマ国の歴史や文化についても役に立てると思うよ」
山吹色の髪を三つ編みに結った小柄な少女、呉陸羽と、赤い山椒魚に似た虫が描かれた金属製のスキットルを腰ベルトに挿した彼女の叔父、呉栄彦が協力を申し出てくれたのだ。
「紗雨はヒーラーじゃないけど、お願いするサメエ。とっても心強いサメエ」
「リウちゃん、栄彦さん、ありがとうございます。まずは図書館と博物館にクイズ対策の調査へ行こうと思うんですが、構いませんか?」
紗雨はワラにもすがる思いで飛びつき、桃太も深々と頭をさげた。
「もちろんだとも。私もリウも、そろそろ行こうと考えていたところさ」
こうして四人はチームを組んで迷宮に隣接された図書館兼博物館に入ったのだが……。
「えへへ、桃太お兄様と初めて会った時のことを思い出します」
「あの時はびっくりしたよ。色々あったけど、こうやって陸羽ちゃんとまた調べ物に来れて良かった」
桃太と陸羽は初めて出会ったのが図書館という思い出が良い方向に働いたのか、瞬く間に距離が近くなってしまった。
「桃太お兄様、竜退治の文献をお願いします」
「よし来た。炎の翼? 氷の刃? よくわからない伝説が多いなあ」
「整理は、うちに任せてくださいね」
紗雨から見ても、桃太が手早く本や資料を見つけ出し、陸羽がテーブルで整理しメモをとる連携は、まるで夫婦のように呼吸があっている。
「サメエエ。今度はリウちゃんとなんかいい雰囲気サメエ」
紗雨も博物館から資料を借りたり、図書館で資料を探すものの、二人の親密な雰囲気に当てられて、あたかもバリアがはられているかのように、間へ割り込むことができない。
「……桃太君は亡くなったリウの兄、陸喜と親友だったと聞く。二人が仲良くなって、きっと喜んでいるんじゃないかなあ。よし今夜は祝い酒だ。ウメダの里の地酒を浴びるほど飲むぞ!」
「ど、どうしてこうなったサメエエ」
あとがき
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