第52話 黒山隊のヒメジ侵攻
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出雲桃太が〝鰐憑鬼〟ザエボスを破った翌日の……、西暦二〇X一年、一一月二六日朝。
元冒険者省官僚にして、現テロリスト団体〝C・H・O (サイバー・ヒーロー・オーガニゼーション)〟の幹部黒山犬斗は、異界迷宮カクリヨに生じた空間の裂け目を通り、クマ国のヒメジ地方へと侵攻した。
黒山が率いるは、〝鬼の力〟に高レベルで侵食された精鋭二〇〇人だ。彼らは山麓の村に立てられた無人の家から食料や生活雑貨を強奪し、時に放火しながら進軍を続けていた。
そんな無法者の中には、出雲桃太の亡き親友、呉陸喜の親戚であり――、〝黒鬼術士〟隊の第三班を預かる若き俊英、呉栄彦の姿もあった。
「今までも民家にしか見えない建物がいくつもあったけれど、これがモンスターの巣だって?」
栄彦は、紙とガラスで手作りした双眼鏡で敵陣を調べ、驚愕した。冒険者達が山裾に作り上げた簡易陣地の前方には、鉄壁の防衛設備が敷かれていたからだ。
「こちらは木の杭を打ち込んで、ロープを張った程度の防衛陣地だぞ。なのに、向こう一〇〇〇メートル先には穴を掘って有刺鉄線が張り巡らされた塹壕があるし、五キロメートル先には純白の要塞が建てられているじゃないか? こんな所へ攻め込もうだなんて、黒山リーダーは何を考えているんだ?」
なるほど迷宮の中には、地球とは異なる自然が広がり、危険な天然の難所が点在していた。
またゴブリンやオークなど、人に似たモンスターが簡単な罠を仕掛けてくる場合もあった。
しかし、今、栄彦達が相対しているのは、格好こそ獣人や妖怪に似ているが、戦国時代を連想させる鎧兜で武装した軍勢なのだ。
「グヒヒ、滑稽とは思わないか。モンスターが一丁前に着飾って、人間のフリをしてやがる。楽隊まで動員して、集まったのはたかだか五〇〇体か。勝利は決まったも同然だ」
ヒゲ面の中年男性である黒山は、調教したトカゲモンスターの引く四輪車に腰掛け、大ぶりのナイフを舌でびちゃびちゃと舐めながら断言した。
「テロリスト団体〝C・H・O〟だな? 僕は地球側から見た〝異世界〟クマ国の代表カムロだ。見ても分かる通り、こちらの軍勢はそちらの二倍以上。武器を捨てて降伏するなら命は保障する。戦うならば、全滅を覚悟しろ」
「日本語を話して、交渉を持ちかける。あの牛仮面の男は本当にモンスターなのか、うおっ!?」
栄彦らは、クマ国のまとめ役を自称する細い男が歩き出す姿を見てどよめいた。
なぜなら、カムロの足と呼ぶべきものが全く見えなかったからだ。まるで幽霊ではないかと、周囲がざわついた。
「ぐちゃぐちゃとうるさいぞ! クマ国などという国は地球上に存在しない。亡霊の怪物め、勇者パーティ〝C・H・O〟が誇る、科学の力を見せてやる」
黒山の命令に従い、腕を機械式の大砲に交換したサイボーグの〝戦士〟達が、五〇発もの砲弾を発射した。
爆発音が鳴り響き、砲撃の反動を消す為に後方に噴き出したガスが、山の稜線に穴を開ける。
「グヒヒ。わしはこの広く豊かな土地を奪い、異界の王となるのだ。そして日本を、地球を変える。これぞ革命よおおっ」
五〇発もの砲弾はどうやらロケット推進式らしく、後方に火を噴きながら、カムロや鎧具足姿の兵士達に向かって飛翔した。
黒山は髭に唾を散らしながら高笑いし、栄彦もまた双眼鏡を手に勝利を確信した。
「黒山リーダーが余裕だった理由はこれか。五〇発のロケット推進式グレネードなら、有刺鉄線なんてひとたまりもないはずだっ」
あとがき
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