第533話 クイズレースはクマ国伝統行事!?
533
『またの挑戦をお待ちしています。罰ゲームのスフィンクスビーム!』
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨は、遊戯用地下迷宮〝ウメダのすごいジャングル〟の門を守るスフィンクス人形の問いかけに答えられなくなって、遂に撤退を余儀なくされた。
「ひどいサメエエっ。ネコさん人形は、意地悪サメエ!」
桃太と一緒に地上へ戻された後、紗雨はいたく腹を立てて、出題者であるはずの運営者、田楽おでんの屋台に乗り込んで注文するや、八つ当たり気味にくってかかった。
「カカカっ。迷宮探索に謎解きギミックを仕込んだ仕様は、一千年前から続くクマ国伝統の正月行事、新春クイズレースを参考にしたのさ」
されど、鴉の濡羽がごとき黒髪の美しい、赤いサマースーツを着た麗女、おでんの返答は意外なものだった。
クマ国では伝統的なやり方だと、逆に諭されたのだ。
「へえ、さすが異世界。クマ国にはクイズレースがあるんですか?」
「ものすごく長い歴史があるんですね?」
「なんだか地球日本の箱根駅伝みたいだが、途中でテストをやるのは珍しいね」
とりあえず大根を注文した桃太と、たまたま隣で昼食をとっていたベテラン冒険者の呉栄彦と、その姪である山吹色髪を三つ編みに結った小柄な少女、呉陸羽。
三人は、揃ってクマ国伝統行事だというクイズレースに興味津々だった。
「サメエ。あれって見るのは楽しいけど、自分でやるのは嫌なんだサメエ」
されど、紗雨はそんな空気など読めるはずもなく、ちくわぶをペロリと平らげたあと、フグやアンコウのように頬を膨らませる。
「運動中にテスト問題もやらせるとかアホサメー。こんなものを始めたやつは、末代までたたってやるサメエ」
「末代までたたるもなにも、初代クイズレースを企画した者も、設営した者も、裏方を勤めた者も、実際に走った者も、みーんな紗雨ちゃんのご先祖だねえ」
「「「え、そうなんだ!?」」」
桃太達が驚きの目線を送るも、どうやら紗雨も初耳だったらしい。
「ご、ご先祖様ったら、どれだけクイズをやりたかったんだサメ。そんなにやる気が凄いなら、もちろん優勝したサメ?」
「カカカっ。出場した選手は、足の速さこそトップクラスだったそうだけど、紗雨ちゃんと同じようにクイズ問題で失敗して、普通に負けたそうだねえ」
「「紗雨ちゃんのご先祖だけあって、そっくり!?」」
そしてクイズレースの考案者達は、意外と残念なお人だったらしい。
「ご、ご先祖様達は、いったい何を考えていたサメエ」
「そりゃ何も考えてなかっ……。いいや、楽しむことを考えていたんじゃないかな?」
紗雨は不服そうだったが、おでんにそう言われては返す言葉がなかった。
「紗雨ちゃん、それに地球からの客人も、クイズを楽しんでくれて嬉しいよ。迷宮深部のクイズは、クマ国神話から出題されることが多いから、ウメダの広場にある図書館兼、博物館を参考にするといい。クマ国のことを知ってくれると運営者としても甲斐がある。……いらっしゃい。何にする? 今日はタマゴがオススメじゃぞ」
田楽おでんはそう言い残し、新しい客が来たために屋台の営業へ戻っていった。
「紗雨ちゃん、元気だして。俺は一緒に遊べるだけで楽しいよ!」
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)