第529話 侮れない敵、お邪魔虫ぬいぐるみ?
529
「楽しいね」
「楽しいサメエ」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨は顔を赤らめ、相方に心臓の音がばれないかドキドキしながら、一階層また一階層と地下深くへ進んでいった。
「よし順調順調」
「こんな時間がずっと続いて欲しいサメエ」
しかし、二人はまだ気づいていなかった。
遊戯用地下迷宮〝U・S・J〟で行く手を阻む障害は、必ずしもトラップばかりとは限らない。
「HELLO!」
「このオレンジ色のオブジェクト、モンスターなのかっ」
「でっかい顔のついたカボチャサメエっ」
ダンジョンといえばお約束のモンスターこと、探索を阻むお邪魔虫の人形も配置されていた。
二人が遭遇したのは、ハロウィンのジャックランタンに似せた、全長二メートル近い巨大なぬいぐるみだった。
「HELLO(お熱いカップルめ。焼き尽くしてやるぜ)!」
カボチャ人形は、くりぬかれた目と口から炎のブレスを吐き出して攻撃してくる。
桃太は紗雨を抱き寄せつつ後方宙返りを決めて、間一髪、灼熱の炎に飲まれることなく間合いをとった。
「当たったら、やっぱり〝振り出しに戻る〟かなっ?」
「なら、こっちも水弾で応戦するサメエ」
紗雨が放った水の弾丸は、ジャックランタンの口へ吸い込まれるように飛んでいくが、威力が制限されているため、あたかも霧のようだ。
カボチャ人形が吹き続ける炎の前に、紗雨が生み出した水の攻撃は容易く蒸発してしまう。
「こ、これが焼け石に水サメエ?」
「いいや、水蒸気で視界が閉ざされた。ここがチャンスだ」
紗雨は怯んだものの、桃太は勝機を見出して突貫。
「紗雨ちゃん。攻撃の鬼術は最低限に、肉体強化に集中して!」
「桃太おにーさん。おまかせサメエ!」
「HELLO(暴力はいけない)!?」
紗雨の支援を受けた桃太は、パンチとキックのラッシュを浴びせ、お化けカボチャを退散させた――。
「やったね、紗雨ちゃん」
「やったサメー!」
そうして辿り着いた地下一〇階だが、無数の扉に阻まれ、二人は行ったり来たりを余儀なくされる。
「あれ、この扉だけ開かないなあ」
「鍵がかかってる。どこかに隠してあるサメエ?」
迷いながらも通れる扉を全て開けて奥へ進むと、やがて目の前に赤く塗られた宝箱が現れた。
「いかにも罠っぽいけど、どうなんだろう」
「でも、ここまできてハズレはないんじゃないかサメエ」
「そうだね。まずは、罠が仕掛けてないか確認しよう」
桃太の役名は〝斥候〟。
強力な〝鬼の力〟こそ使えないものの、罠の確認はお手のものだ。
「この宝箱にトラップは仕掛けられていないようだ。よし、開けるぞ」
「どきどきするサメエ」
しかしながら、桃太が蓋を開けると、箱の内部に刻まれた梵字のような文字が輝き、ピエロ顔のぬいぐるみがあたかもびっくり箱を真似るように出現。
「MIMIMI(リア充め報いを受けろ)!」
大きく裂けた口の中から、無数のヒモを束ねたような舌で攻撃したではないか。
「うわっ、おでんさんの術にはこんな使い方もあるのか!?」
「ええっと、これはミミック、サメエ!?」
桃太は咄嗟にヒモのような舌を掴み、抵抗も気にせず無理やり引っ張る。
「負けるかあっ」
「サメパワー全力全開サメエエっ」
「MIMIMI( ひどっ)!?」
桃太に紗雨も加勢し、二人がかりで舌を引っ張り続けると……。
ピエロ顔のミミックもとうとう耐えきれなくなったのか、鈍く光る鍵を吐き出して脱兎とばかりに去っていった。
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)