第528話 桃太と紗雨の迷宮デート
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「肝を冷やすアトラクションが満載じゃないか。た、楽しいし、訓練にもなるけど、期限の一週間どころか、一か月かけても探索が終わらないんじゃ?」
「カカカっ。わしが創った遊戯用地下迷宮〝U・S・J〟に抜かりはない。短期旅行者も想定して、エリアとエリアを結ぶ間には、チェック&ワープポイントを作ってあるのさ」
二度目のゲームオーバーでスタート地点に戻された……、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太の疑問に対し、鴉の濡れ羽がごとき黒髪が美しい迷宮の運営者、田楽おでんは赤いサマースーツから伸びる手で簡易地図を指差した。
どうやら来客のために、一定階層ごとに朱印が押せて、転移装置が作動するお宮風の部屋があるらしい。
「なるほど、これを使えばスタート地点に戻されても、再チャレンジできるのか」
「桃太おにーさん。前とは別の道を探すサメエ」
幸い四人までなら、チームを組んでも構わないというルールだ。
桃太は、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨とコンビを組み、手を繋いで迷宮内部を巡った。
「すぐに降りるんじゃなくて、遠回りすれば良かったのかっ」
「罠に誘導する偽物階段を三つも用意するなんて、やりすぎもいいところサメエっ」
桃太達はチェックポイントを発見後、何度か死に戻りならぬ、ゲームオーバーとコンティニューを繰り返し……。
遂に罠フロアを避けるルートを発見、本物の次階層へ移動することに成功した。
「よし抜けたぞ。今度はミラーハウスなんだ? 紗雨ちゃん、いろんなエリアがあるんだね」
「サメエ、サメエっ。桃太おにーさんと一緒に遊べて楽しいサメエ。このアトラクション、世界に二人きりみたいでドキドキするサメエ……」
桃太と紗雨にとってラッキーなことに、ウメダのすごいジャングルは、デートスポットとしても十分な娯楽施設に満ちていた。
「次の階層は、トロッコ探検コースだって。紗雨ちゃん、一緒に入ってみる?」
「サメっ。揺れて、ワクワクするサメエ」
「光るコケとか、黒い岩肌とか。飛ぶように景色が流れてゆくなあ。って、目の前に大穴あ!?」
二人でトロッコに乗って、坑道めいたコースを走ったり――。
「穴に落ちたと思ったら、あれが正規のゴールだったのか。まったく心臓に悪い」
「三枚おろしの刺身にならずに済んで良かったサメエ。なんか豪華な部屋があるサメ?」
落ちた先に待っていた、一面の観客席と舞台からなる劇場フロアで。
「あそこもここも、いっぱいぬいぐるみがいるなあ」
「可愛いけど、サメのぬいぐるみは無いんだサメエ?」
「開演のベルが鳴ったよ。ちょっと見ていこう」
大小様々なぬいぐるみが演じる人形劇を見て和んだり――。
「ここは、足元に針が敷き詰められているのか。偽物みたいだけど、落ちたら痛そうだなあ。この階層のチェックポイントはまだ見つけていないから、振り出しに戻るのは避けたいし、どうしたものか」
「桃太おにーさん。天井の針にロープが結んであるから使うサメエ。ああいうの楽しいサメエ」
「よし、一緒にやろう」
針の山を模したアスレチックフロアを、ターザンロープを駆使して突破したり――。
「紗雨ちゃん、髪が乱れちゃったね。手伝うよ」
「この櫛を使って欲しいサメ。こ、こそばゆいサメエ」
桃太が紗雨の銀色の髪を櫛ですいたり――と。
(綺麗だなあ)
(嬉しいサメエ)
二人は迷宮探索を通して、少しずつ距離を縮めてゆく。
「楽しいね」
「楽しいサメエ」
あとがき
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