第526話 遊戯用迷宮探索開始!
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額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、冒険者パーティ〝W・A〟一同は、昼食を存分に楽しんだ後、いよいよ遊戯用地下迷宮〝U・S・Jに潜ることになった。
「地球から来た我が弟妹たちよ。この泉こそ、わしが作りあげた迷宮の入り口じゃ」
鴉の濡れ羽がごとき黒髪の美しい、赤いサマースーツを着た麗女、田楽おでんが指差す方角には、なみなみと水が注がれた人工泉があり、その中心まで伸びた通路の先には「いかにも迷宮があります」と言わんばかりの、物々しい階段が作られている。
「泉の真ん中から入るんですね。なんだか都市伝説みたい」
「「ワクワクするなあっ」」
おでんは予備動作もほとんどなくすっと跳躍し、階段の前に降り立った。
「先ほども説明したが、地下三〇階、迷宮の最奥にある記念碑まで辿り着いた弟妹には、皆の姉たる田楽おでんが褒賞品として可能な限りの願いを叶えてあげよう。一人で探索するのも楽しいじゃろうが、広いゆえにさすがに難しかろう。最大四人までならチームを組んでも構わぬぞ」
「「ありがとうございます。さあやるぞー」」
そうして、桃太達はやる気満々で〝ウメダのすごいジャングル〟に潜ったのだが、即座に洗礼を浴びることになった。
「「ギャー!! 岩だあああっ」」
探索開始から半時間もたたないうちに、通路を押し潰すような大岩が転がってきたからである。
「「まずい、逃げろ!」」
桃太たちは慌てて駆けだすが、丸い大岩は転がるたびに速度を増して追尾してきた。
「初見殺しの大岩サメエ。みんな、サメに変身して避けるんだサメエ」
銀髪碧眼の少女、建速紗雨は逃げられないと見るや、銀色の空飛ぶサメに変身し、大岩と天井のわずかな隙間を潜り抜けた。
「「それが出来るのは、紗雨ちゃんだけええ」」
しかしながら、桃太達にそんな器用な真似ができるはずもない。
「みんな、俺の後ろに下がれ。〝生太刀・草薙〟でぶっ飛ばす!」
桃太はやむを得ず、岩の破壊を試みることにした。
右手を掲げ、竜をも落とす必殺技の発動モーションに入った、まさにその瞬間――。
後方から容赦の無いツッコミが入った。
「出雲。草薙は、さっきカムロさんとおでんさんが激突した時に時に、使っていなかった?」
「出雲君。お昼は食べたけど、草薙を使えるくらいに回復してる?」
「BUNOO!?」
サイドポニーの目立つ少女、柳心紺と、瓶底メガネをかけて白衣を羽織る乙女、祖平遠亜。更には琥珀色の体毛をもつ虎に似た式鬼ブンオーが慌てて忠告する。
桃太は彼女達の指摘を受けて、ダラダラと額から汗を流した。〝生太刀・草薙〟は、絶大な破壊力を誇る反面、体力、精神力を激しく消耗する――。
師匠であるカムロならいざ知らず、修行中の桃太では、最低でも半日から最長で一日のインターバルが必要になる。
「だ、駄目だったあ!」
「「 ちょ、おまっ、間に合わない!」」
パーティリーダーが必殺技の発動に失敗して膝をつくと同時に、冒険者パーティ〝W・A〟のメンバーは揃いも揃って、ハエ叩きにでも撃たれたように、丸い大岩に踏まれてしまった。
「「ぎょえええっ」」
が、そこは遊戯用ダンジョンだけあって、何らかの幻影術でペラペラになった姿を見せられた後、入り口の階段まで戻された。
「とんでもない迷宮だぞコレ!?」
あとがき
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