第525話 昼食会
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「クマ国の防災は僕の仕事だからね。そして、桃太君は冒険者パーティ〝W・A〟の代表で、焔学園二年一組の一員だろう? 今はかけがけのない思い出を作るといい。最初は、このおでんの屋台からかな。長年の経験だけあって絶品だぞ」
臨海都市ウメダの里で屋台を営む田楽おでんが見守る中――。
異世界クマ国の代表カムロは、弟子である額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太の頭に手のひらを置いて微笑んだ。
「桃太君。この一週間、久方ぶりに楽しかったよ」
「カムロさん、俺もです。ありがとうございました。お元気で」
カムロは桃太に別れを告げた後、サメのきぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨になにかを話しかけてポカポカと胸を叩かれ、最後に来訪者全員に向けて手を振った。
「僕はこれから仕事だが、九月一日に迎えを送る。冒険者パーティW・Aの諸君、昼食を、そしてよい休暇を楽しんでくれ」
西暦二〇X二年八月二五日昼過ぎ。
カムロが去った後、桃太と焔学園二年一組のクラスメイト達は、おでんが振る舞う弁当をご馳走になった。
「おでんって、冬だけの食べ物じゃなかったんだ。かつおぶしと昆布だしが染み込んだダイコンが口の中で溶けて、うまい」
桃太はニコニコ顔で大きなダイコンにかぶりつき……。
「田楽おでんさんの作るちくわは、良い魚を使っているから、おいしいんだサメエ」
紗雨がちくわをはむはむと頬張り……。
「出汁に混ぜられた梅干しがアクセントになって、暑さの中でもさっぱりした味わいですね」
栗色の髪を赤いリボンで結んだ女教師、矢上遥花が薄焼きの陶器皿に入った出汁を飲んで目を輝かせる。
「へえ、このがんもどき、つなぎが山芋なんだ。ジュワッとしてる」
柳心紺は、野菜たっぷりのがんもどきが気に入ったのか、褐色のサイドポニーを揺らしながら何度もお代わりを頼み……。
「BUNOO!」
彼女達の傍にいる式鬼ブンオーも、喜びの声をあげて餅入り巾着にかぶりついていた。格好こそ虎に似ているが、どうやら肉食というわけではないらしい。
「これが色は茶色いけれど、糸蒟蒻かな。歯応えがぷるんぷるんだ」
また白衣を着た少女、祖平遠亜が瓶底メガネの奥の瞳をきらりと輝かせながら、好物であるカロリーオフの食材を狙って舌鼓をうつ。
また屋台で提供されるおでんの具材は、必ずしも和食にとどまらないらしい。
「こいつは魚肉ソーセージか? 酒が進みそうだ」
助っ人である無精髭の目立つ男、呉栄彦は手皿に盛ったソーセージを肴に、腰に縛りつけた酒瓶をあおろうとするも。
「栄彦おじさま、お仕事中ですよ。こっちは、サバの身を巻き込んだロールキャベツ。サバ缶を使えば桃太お兄様に同じのご馳走できるかな……?」
親戚である、山吹色の髪を三つ編みに結えた少女、呉陸羽に阻まれた。
「色は地球と違うけれど、トマトやレタス、おくらにズッキーニ、アスパラガス……に似た夏野菜もいっぱいですわ。これぞ夢に見た友達との買い食い!」
箱入り娘だった六辻詠は、二つのお団子状にまとめた赤い髪を、犬の尻尾のようにぶんぶん振りながら満面の笑みを浮かべる。
「「ああ美味しかった!」」
「「ご馳走様」」
「「じゃあ、やるか!!」」
桃太と、冒険者パーティ〝W・A〟一同は、昼食を存分に楽しんだ後、いよいよ遊戯用地下迷宮〝U・S・Jに潜ることになった。
あとがき
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