第51話 命の重み
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桃太が山道に手をついて詫びると、紗雨と乂は首をぶんぶんと横に振った。
「サメっ、サメエ。頭をあげて欲しいサメエ。桃太おにーさんが〝鬼の力〟に憑かれた人を助けたいって気持ち、紗雨にもわかるサメエ」
「ネバーマインド! 相棒には借りがあるし、オレにも一〇年前の真実を知りたいって目的がある。契約続行は望むところさ」
「紗雨ちゃん、乂。ありがとう」
額に十字傷を刻まれた少年は、左肩に白銀のサメを、右肩に黄金のヘビを乗せて立ち上がった。
「出雲君、決意は変わらないのね。わたしも昔から救いたくて、守りたくて、何もかも取りこぼしてきた。だけど、貴方のことを失いたくないの。一緒に行ってもいい?」
「先生は俺の命を救って、導いてくれた恩人です。一緒に来てくれますか?」
桃太は遥花とも手を繋ぎ、青い木の葉が舞い落ちる山道に一歩を踏み出す。
「出雲君、私も連れて行って。クーデターが始まってから、何人も犠牲が出ているの。勇者パーティ〝C・H・O〟の横暴を、見て見ぬ振りなんて出来ない」
ショートボブの〝白鬼術士〟、祖平遠亜もまた、厚い眼鏡に隠れた瞳に強い怒りの火を灯して、四人に並んだ。
「遠亜っちに先に言われたけど、アタシも力になりたい。山を越えた転移門の奥には、研修生がまだまだいるよ。正気に戻してあげないとっ」
遠亜とコンビを組む、サイドポニーの〝黒鬼術士〟、柳心紺もネイルの目立つ手をひらひら振りながら追いついた。
「どの面下げてと思われるかもしれないが、おれ達も頼む! 伏胤が狂い、張間が死んだ理由が〝鬼の力〟というのなら、放っておけない」
「そうだ。このままじゃ、オヤジやオフクロまで死んじまうかも知れん」
「何が出来るかわからないけど、一緒に戦わせてちょうだい」
更には、粛清部隊を率いていたリーゼント髪の〝戦士〟、林魚旋斧ら、一〇人の研修生が声を上げる。
「わかった。一緒に行こう。インターネットや動画でダンスを見せることはできないけど、直接踊って見せたなら正気に戻る団員もいると思うんだ」
桃太は親友、呉陸喜の最期を思い出し、胸の痛みを飲み込んだ。
(リッキー。お前ならきっと、こうするものな)
とはいえ、親である宮司を殺されたウサギ耳の幼子達を置いてはいけない。
「先に、亡くなられた宮司のお子さん達を安全な場所に送ろう。それと林魚、聞きたいことがある」
桃太は念のために衝撃のソナーを撃ち込んで無事を確認した後、ずっと知りたかった男の行方を尋ねた。
「呉学級委員長を殺した、黒山犬斗はどこにいる?」
「黒山はおれ達に、派手に暴れるよう命じてから、大人の冒険者を率いて別の場所に行っちまった。先にヤツらを探すか?」
林魚の提案に、桃太の心は一瞬揺らいだ。陸喜を殺した黒山への怒りは、心の底でぐつぐつと煮えたぎっていた。
「出雲君。イナバの転移門を通って三縞代表を目指すのも、クマ国に残って黒山を止めるのも、どちらの方針も良いと思う。貴方に選んで欲しい」
桃太は遥花を見た。
彼女は教師として牽引するのではなく、彼に判断を委ねた。
(重い、な)
今、桃太の両肩に乗っているのは、乂と紗雨だけではない。
彼自身を含む一六人の命運なのだ。
「矢上先生。俺達の目的は、〝C・H・O〟の暴挙を止める事です。ならば、三縞代表を抑えるのが早道でしょう」
「いいのか、黒山達は高レベルの冒険者だぞ?」
林魚の問いに、桃太はどう答えたものか迷った。外交官の奥羽以遠にクギを刺されたこともあり、クマ国の事にどう触れるべきか迷ったからだ。
けれど、紗雨と乂は奥羽や日本政府に従う義理はなく、カムロの公開するという判断を優先したようだ。
「サメエ。冒険者って、異界迷宮探索と怪物退治の専門家サメ? だったら戦争は畑違いサメ。この世界、クマ国にも軍隊はあるサメエ」
「シャシャシャ。林魚って言ったか? サメ子の言う通り、自衛隊が相手なら勝負はわからんが、〝冒険者でいられなかった〟テロリストなんて、クマ国のまとめ役が滅してくれるさ」
あとがき
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