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第521話 付喪神おでんと、火竜アテルイ

521


「地球の弟くんや妹ちゃん達が通ってきた鉄道橋を、アテルイ橋というんだが――。その名前はこの地を侵略者から守って死んだ、火竜アテルイにちなんで名付けられたんだ。わしも同じよ。あやつへの手向たむけとして迷宮を作った」


 鴉の濡れ羽がごとき黒髪の美しい麗女、田楽でんがくおでんの独白を聞いて、焔学園二年一組の学友達は目を丸くした。


「へえ、そうなの?」

「竜って全部、悪逆非道の怪物じゃなかったんだ?」

「アテルイさんって、立派な方だったんですね」


 そんな地球からの客人の反応に対し、異世界クマ国の付喪神つくもがみは、赤いサマースーツをふわりと動かして首を傾けたものの……。


「勇敢だったことは確かだよ。どんな強敵を相手にもひるむことなく挑んだし、仲間を守って傷ついてもおくびにも出さないイイ奴だった。タフで気の良い兄貴分だった。――弟や妹にはおせっかいだと迷惑がられていたけどね」


 彼女が回顧かいこしたアテルイ像は、まさに頼れる男そのものだった。


「「ああ……」」


 額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太いずととうたが異世界クマ国代表のカムロから、アテルイ伝説のさわりを教えられた時もそうだったが……。

 冒険者パーティ〝W・Aワイルド・アドベンチャラーズ〟もまた、これまで相対したドラゴン――八岐大蛇やまたのおろちの首がどいつもこいつも性格最悪の外道だったが故に、おでんの語る〝善良なドラゴン〟というギャップにおおいに動揺した。


「今思い出すと、悪いところも多かったな。側にいる奴の好意にも気づかない鈍感のくせにナンパ野郎で、コワモテの仏頂面で安酒をかっくらいながら〝皆から愛されるラブリープリチーなドラゴンとして生きたい〟とくだをまくような身の程知らずだった。――スサノオ達と出会えば運命だって変わったかも知れないのに、八岐大蛇との戦いであっさり死にやがったことも許せん。もうちょっと長生きしろバカ」


 桃太達は騒ぐのをやめて、祈るように押し黙った。

 おでんのしっとりした口調からは、アテルイへの深い友情がほのみえたからだ。


「わしは悪友として、せめてアイツの遺骸をドラゴン鍋にして食べてやろうと思い、この島へやってきたんだ」

「「えっ、鍋にして食べちゃう!?」」


 しかしながら、照れ隠しらしいおでんのジョークは異世界に過ぎて、桃太達は理解不能だった。

 ギャグがすべったと判断したのだろう。おでんは口角をゆるめて言いなおす。


「こほん、違った。アテルイに墓のひとつでも立ててやろうと思ってきたんだが――アイツが迷路を作るのが趣味だったことを思い出して、慰霊場いれいじょうの代わりに創り始めたら、つい楽しくて続けちゃったのさ」

「おでんさんって、友達想いなんですね」

「だから迷宮が、亡くなったアテルイさんへの手向け。おでんさんなりの友情のしるしなのか」


 桃太とクラスメイトの反応に、おでんは上機嫌になった。


「ふふふ。そう褒めても何も出ないと言いたいところだが、私の〝U・S・Jウメダのすごいジャングル〟は一味違うぞ。カムロのように地下三〇階にある最奥の記念碑きねんひまで辿り着いたものは、迷宮の主人である私が可能な限りの願いを叶えてあげよう。さすがに死者の蘇生や、不老長寿ふろうちょうじゅのような奇跡は無理だが、お金に素材、道具、ちょっとした〝鬼神具きしんぐ〟くらいなら用立てよう」

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] ア「テル」イ >タフで気の良い兄貴分だった 弟「本当にそう思うのかい?(暴走して弟妹が作った里を襲撃する映像)」 妹「久しぶりに再会した相手にこんな部屋を用意するんですよ?(YES枕ほか)…
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