第520話 なぜ人工迷宮は造られたのか?
520
「おいおい、カムロ。広さと掃除機能だけを褒めてどうするんだ。
わしが創りあげた〝ウメダのすごいジャングル〟は、中のアトラクションも当然ながら凝っている。
様々なトラップで遊んだり、トロッコに乗って速度を楽しんだり、地下植物と泉が織りなす光景を堪能したりと様々な非日常を体験できるフロアが山盛りだ。
鬼術の威力は、里一帯に張り巡らせた結界で、〝一万分の一〟以下に抑えているから怪我の心配も無い。地上には出店だってあるぞ。今の時期のオススメは冷やしおでんだな」
「「すごい、本当に遊園地みたいだ!?」」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太桃太達が、充実した設備に歓声をあげると、カラスの濡れ羽が如き黒髪が美しい田楽おでんは赤いサマースーツの裾から伸ばした白い腕で天を指差し、ビシッと決めポーズをとった。
「カムロの説明に付け加えると、この世界の記録は五〇年以上前に八岐大蛇の侵略で多くが失われてしまったが、〝U・S・J〟は地上の別館として、クマ国の黎明期から現代までの書籍を集めた図書館や、歴史的な遺物を集めた博物館もあって、文化的価値も高いのさ」
「クマ国でもここ以上に、安全な場所はないからね。助かっているよ」
先ほどまで殴り合っていたというのに、カムロがおでんに向けた賞賛は本心からのものらしく、二人はニカッと笑いながら握手を交わした。
「里が出来上がった当時、〝ウメダのすごいジャングル〟は、ちょっとしたアスレチック迷路だったらしい。ところが、一千年ほどおでんが何度も建てましした結果、地球日本の梅田地下街や、新宿駅にも匹敵する広大なダンジョンになってしまったそうだよ」
牛頭の仮面をかぶるクマ国代表カムロの解説を聞いて、桃太は誤解が過ぎると否定しようとしたが――。
「か、カムロさん。日本の梅田地下街や新宿駅は迷宮ではありません。いや、ダンジョンなのか。ダンジョンのような気がしてきたぞ」
――途中で諦めた。
「「モンスターこそ出ないものの、迷いやすさでは日本でも一、二を争うものな」」
焔学園二年一組のクラスメイト達が揃って頷くくらいには、右も左もわからなくなる立地だったからである。
「おでんさん。いえ、おでんお姉さんは、どうしてこのような遊戯迷宮を造られたのですか?」
「うん、うん。わかっているじゃないか、矢上先生。わしは、お姉ちゃんだぞ。そうだなあ、古なじみへの鎮魂、かなあ」
引率教師である矢上遥花の問いに対し、おでんはウメダの里を取り巻く伸びる長い海上橋を指差した。
「地球の弟くんや妹ちゃん達が通ってきた鉄道橋を、アテルイ橋というんだが――。その名前はこの地を侵略者から守って死んだ、火竜アテルイにちなんで名付けられたんだ。わしも同じよ。あやつへの手向けとして迷宮を作った」