第516話 格闘技のトレンド(間違い)
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「おいこら、おでん。ビームのどこが格闘技だあっ?」
「カカカっ、わしは皆のお姉ちゃんだからな。最新の弟妹達と話をすべく、地球の流行についても学んだのだよ。最近の格闘技は、飛び道具技、突進技、対空技の三つがもっともトレンディなのじゃろう!」
辛くもビームを避けた牛頭に似た仮面をかぶる紋付き袴を着た白髪の老人カムロの抗議に対し、ウメダの里で屋台を営む、鴉の濡れ羽がごとき黒髪が麗しい赤いサマースーツを着た美女、田楽おでんは悪びれることなく言い返した。
「「それは格闘技じゃなくて、格闘ゲームの話いっ!」」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太達、地球出身者は即座にツッコミを入れたものの、残念ながら同意を得られなかったらしい。
「何を言う? 格闘の遊戯なんじゃから正しかろうに。これが突進技でええっ」
おでんは足先で梵字めいた文字を刻むや、影も見切れない速度で疾走。
左肘打ちから右掌底に繋ぐ二連撃を放って、カムロの背後にあった瓦礫を粉砕した。
「あ、あぶない。上に逃げなきゃ、直撃だった」
カムロ自身は石畳の残骸を囮に飛び上がり、なんとか避けたものの……。
地上にいるおでんは、ニコニコと腕を回しながら複数の文字で構成された魔法陣を描き、電信柱十本分はあろう長大な槍を形成して突き出した。
「お待ちかねのおっ、これが対空技だああっ」
「ちょっと待てよ。もはや格闘技ですらない。思いっきり武器じゃないか!?」
牛頭を模した仮面をかぶる和服姿の老人は大声でぼやきつつも、赤服を着た麗人が地上から突き出した極太の槍を、空中で小器用に受け止めた。
「なんの! スサノオは鍛冶場の神でもあるんだぞ。武器の製作と破壊には手慣れている」
そうしてカムロが空中でくるりと回転すると、おでんが作り上げた巨大槍はボロボロと崩れ、文字の塊へと変化した。
「ああ、そうすると思っていたよ」
しかし次の瞬間、突然、カムロの身体に異変が起きた。
槍が解体されたことでばら撒かれた、黒々とした文字が鎖となって絡みついたからだ。
「カカっ。油断したな。わしの攻撃手段は二四種の文字。組み合わせ次第で変幻自在の効果を発揮する。今の槍は、お前を拘束するための囮だったのさ。智慧の象徴、神秘の文字よ、我が領地、我が支配の空間となって現代の覇者を縛りあげよっ。そして、真打ちの槍をもう一本おまけだ!」
「そいつは恐ろしい!」
おでんがつくりあげて自らの喉元へに迫る巨大槍に対し、カムロは言葉とは裏腹に楽しそうに笑った。
「頭に大雷、胸に火雷、腹に黒雷、陰に析雷、左手に若雷、右手に土雷、左足に鳴雷、右足に伏雷――八色雷公をもって、古の覇者に挑もうっ!」
カムロの全身が八色の雷光に包まれ、彼を取り巻く梵字のような文字もろともに、おでんが再び放ってきた長大な文字の槍を焼き払う。
「カカカっ。老いたというのに、情熱的じゃないかっ」
「僕より年上が言うことかいっ。お前の武器は破壊した。このまま倒してみせる」
あとがき
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