第515話 自称、お姉ちゃんの猛攻
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「カムロ様頑張れ」
「おでん様負けるな」
「今年のクマ国で一番強い方を決める頂上決戦だ。見れて良かった」
「今回はどっちが勝つかな?」
異世界クマ国の代表たる、牛頭に似た仮面をかぶる紋付き袴を着た白髪の老人カムロ。
ウメダの里で屋台を営む、鴉の濡れ羽がごとき黒髪が麗しい赤いサマースーツを着た美女、田楽おでん。
驚くべきことに、二人の激突自体はよくあることなのだろう。
「一年に一度の決戦だっ、盛り上げていこう!」
「団子お、団子はいらんかねえっ」
「麦茶はこちら、キンキンに冷えてるよお」
ウメダの里人達は巻き込まれぬよう距離をとりつつも、声の限りに応援し、時に屋台で買い食いしながら、二人の対決を見守っていた。
「楽団がきたよー」
「ここからがクライマックスか!?」
それどころか興奮のあまり、遂には和笛や三味線といった楽器を持ち出して、オーケストラ風の伴奏まで始める始末だ。
「ジイチャンってば、普段は本気を出せないからって、おでんさんに会うといっつもあんな風に甘えるんだサメエ」
「おいおいおいっ。田楽おでん、里に張った結界で、鬼術の威力を〝一万分の一〟に抑えているからと言って、やることなすこと派手すぎないか? まったく半世紀前は、アイツが出て来なくて命拾いしたよ」
サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨の嘆きや、モンスターの首魁、八岐大蛇のエージェントたる昆布髪の少女、伊吹賈南の呆れ声も聞こえているかどうか?
「カムロさんが本気を出せる相手、それが田楽おでんさん!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、地球から来た冒険者パーティ〝W・A〟の団員達が圧倒される中、カムロとおでんの攻防は更に激しさを増してゆく。
「せいやっ!」
「こいっ!」
二人が拳と足を交わすたびに、ウメダの里を取り巻く大気が音を立て、大地が揺れた。
一進一退の激しい攻防が続くものの、やはりカムロの地力が勝るのか、徐々におでんを押し始めた。
「おでん。悪いが、手足の長さはこちらが上だ。このまま勝負をつけさせてもらう」
「カカっ。愚かなる弟よ、それは取らぬ狸の皮算用というものよ。賢明なるお姉ちゃんの格闘技を見せてやろう」
「いや、姉じゃないし。見境なしに弟妹認定してくる不審なヨーカイとか親戚にいたら困るんだがっ?」
「よおし、おしおきだ。くらえ、おねえちゃんビーム!」
カムロが体格差を活かしておでんを押し込もうとした直後、彼女の白魚のような指先で梵字のような文字を描くや、手のひらからエネルギーの奔流が放たれた。
「「び、ビームだってええっ!?」」
桃太たち、焔学園二年一組の生徒達が口を大きく開いたのも無理はない。
八岐大蛇の首が放つブレスに勝るとも劣らないピンク色のビームが空へと直進し、ウメダの里周辺を漂う逆ピラミッド型の岩盤と、中央に建てられた空中神社すれすれを通り抜けて、白い先乱雲にまで達していた。
「あ、あ、危なかったっ」
カムロは半ば宙返りするようなダイナミックなバックステップでかわしたものの、ビームに焼かれて牛仮面の一部がえぐれている。
「おいこら、おでん。ビームのどこが格闘技だあっ?」
「カカカっ、わしは皆のお姉ちゃんだからな。最新の弟妹達と話をすべく、地球の流行についても学んだのだよ。最近の格闘技は、飛び道具技、突進技、対空技の三つがもっともトレンディなのじゃろう!」
あとがき
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