第513話 カムロ 対 田楽おでん
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「「えええ!?」」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と冒険者パーティ〝W・A〟の一同、地球からの来訪者が驚いたのも無理はない。
異世界クマ国の代表カムロと、ウメダの里で屋台を営む田楽おでんが、客人を放置したまま、素手とはいえ大人気もなく殴り合いを始めてしまったからだ。
牛頭を模した仮面をかぶった老人と、赤いサマースーツを着た黒髪の美しい麗女が織りなす戦闘の苛烈さたるや、たった一回の攻防で駅前中央広場にお椀型の大穴を空けるほどだ。
「おい、おでんっ。いきなり蹴りを入れるなんて、あまりに礼儀がなってないぞ。少しは加減しろ、こっちは幽霊だから足が使えないんだぞっ」
カムロは口でこそいさめるものの、黒色の紋付き袴という見るからに動きにくそうな礼服で手刀を振るうたびに、衝撃波でも生じているのか、触れてもいないはずの広場の石畳がスパスパと障子紙のように裂けてゆく。
「カカカッ。礼儀だあ? 先に無礼を働いたのはそっちだろう。コンディション最悪なのに舐めた態度で遊んでいるから、痛い目にあうんだ。ばーかばーか!」
一方おでんも罵声をあげつつ、サマースーツを閃かせて跳びあがり、ロングスカートから伸びる白い足で、空中に梵字のような文字を刻んで蹴りつける。
そのたびに、カムロを取り巻く空気が裂ける音が響き、地面にもあたかも機関砲にでも撃たれたかのように、蜂の巣のような穴がポンポンと穿たれた。
「お二人とも役名宣言をせずに、これだけの〝鬼の力〟を使えるなんてっ」
「おいおい〝鬼神具〟もないのに、デタラメな強さじゃないか」
二人の強さたるや、歴戦の冒険者でもある担任教師の矢上遥花と、彼女の助手をつとめる特別講師の呉栄彦が青ざめ――。
「遠亜っち、牽制技のジャブやローキックがかすめただけで、地面がえぐれるっておかしくない?」
「心紺ちゃん。カムロさんは、両手に衝撃波をグローブみたいに巻きつけて受け流しているし、おでんさんは変な文字を要所要所で盾に使って受け止めているみたい。八岐大蛇の首が人間の技を使ったらあんな感じになるのかもっ!」
「BUNOO!?」
パーティの参謀役である、サイドポニーの目立つ少女、柳心紺と、瓶底メガネをかけた白衣の少女、祖平遠亜は戦慄し、琥珀色の毛並みを持つ虎に似た式鬼ブンオーに至っては、恐怖のあまり前足で頭を抱えるほどだ――。
「ちっ。このウメダの里は、どうやら鬼術の威力が〝一万分の一〟になる結界で押さえつけているようだ。だというのに、カムロのあんちくしょうは、田楽おでんと戯れているだけでこの有様か。妾達も半世紀前より強くなったといえ、一本一本で当たっては蹴散らされて終わりだ。やはり八岐大蛇本体でなければ同じ土俵にもあがれんかっ」
地球とクマ国をむしばむ鬼の首魁、八岐大蛇のエージェントである伊吹賈南さえも冷や汗がとまらない――。
「すごい、おでんさんは、カムロさんと互角なのか!?」
ただ桃太だけは、初めて見るカムロの実力が発揮されたおでんとの戦いに胸を高鳴らせ、見惚れていた。
(あ、れ? おでんさんの体さばき、どこかで見たような気がする?)
あとがき
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