第512話 姉を名乗る長命者
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「わしは、クマ国の前世界と前々世界、二度の世界滅亡を体験した付喪神で、クマ国最年長の住人だ。これはもうクマ国、そして、クマ国と結びついた異世界地球に生きる全ての姉だと言っても過言ではあるまい!」
「「な、なんだってえええ」」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太が率いる冒険者パーティ〝W・A〟一同は、背中まで伸びた鴉の濡羽色の長髪が美しい、赤いサマースーツを着たおでんなる女性の自己紹介にどよめいた。
「サメエ。おでんオネエちゃんは、変わらないサメエ」
例外だったのは、おでんと面識があるという、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨と――。
「おでん。地球から来た子供達をからかうんじゃない」
牛頭に似た仮面をかぶり黒い紋付き袴の和服で正装した、異世界クマ国の国家元首カムロの二人だけ――だ。
「冗談? なんのことだ。おいおいカムロ、種族・幽霊を自称するくせにボケたのか。わしの発言が真実であることは、他ならぬお前が重々承知しているはずじゃろう!」
おでんは黒く輝く瞳を愛おしげに細め、焔学園二年一組の生徒達を抱き寄せるように両手を広げた。
「「カムロさんっ。田楽おでんさんって、そ、そんなに長生きなんですか?」」
桃太ら来訪者全員の視線が、事情を知っていそうなカムロへと集中する。
「……さてね。地球の国々が滅亡と勃興を繰り返しているように、クマ国の前に八岐大蛇に滅ぼされた国々《くにぐに》があったことは本当だ。そして、僕が生まれた五〇年以上前には、彼女はもうウメダの里で他人に姉呼びを強いる伝説的な不審者、いや有名人だったよ。もういっそ付喪神ではなく、アネヨーカイとでも名乗ったらどうだい?」
カムロは軽やかな口調で皮肉ったが、おでん女史の逆鱗に触れたらしい。
「カッ。誰がアネヨーカイだって? この不良弟め、お姉ちゃんに喧嘩を売るとはいい度胸だ」
カムロが茶化すような言葉を投げかけた瞬間、おでんの黒い瞳が赤く染まる。
彼女は長いスカートをひらりとはためかせて跳躍し、白いふとももを見せながら足先で空中に梵字のような文字を刻み込むや、あたかもオーラのように全身にまとわりつかせながら、飛び蹴りを放った。
「そういう短気なところがヨーカイだって言うんだ。地球で売られている瞬間湯沸かし器でもあるまいに!」
カムロは動きにくい礼服なので避けること叶わず、両腕を重ねるようにして受け止めたものの、おでんが放つ蹴りの威力に耐えきれず、幽霊らしく足の見えない下半身がぐらりと沈む。
ついでドオオンと爆発的な轟音が響き、駅前広場の石畳がめくれ上がって、半径五メートル近いお椀型の大穴が空いていた。
「「えええ!?」」
あとがき
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