第508話 獅子央焔はなぜ八岐大蛇の首を保護したか?
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「カムロは強すぎた。死人兵やモンスターは鎧袖一触とばかりに蹴散らされ、隠形術に秀でた第八の首が奇襲するも失敗して討たれ、生存能力に長けた第七の首も増殖した分け身もろとも殲滅された」
若き日のカムロは、伊吹賈南とその父、弥三郎を退け……。八岐大蛇の首と称される鬼の首魁、七体いた強大無比なドラゴンのうち、過半数にあたる四体を瞬く間に討ち取った。
「妾達が敗色濃厚となるや、性格は悪いが臆病者だった第六の首、カウアドドラゴンが〝逆らえば人質を殺す〟とかなんとか塩っぱいことを言い出した。当然ながら激怒したカムロに殴る蹴るのあと、首を刎ねられて見せ場もなく消滅した」
「カムロ様、お強いんですね」
「強すぎるわ。裏ボスにもほどがある」
賈南は、白く輝く流れ星が落ちる夜空を見上げ、まるであの戦いを見るようだと重い息を吐く。
「もはや終焉は目前だった。その時、第二の首、テスカトリポカが、妾と先代の弥三郎を逃がすと言い出した。ここで全滅するわけにはいかないと」
単なる善意ばかりでなく、第二の首にも個人的な理由があったらしい。
『ようやく見つけたんだ。アイツこそ、我が探し求めたケツァルコアトル。運命のライバルだ』
『……そういう勘違いストーカーは大嫌いだ』
カムロはテスカトリポカの口説き文句をけんもほろろに断って、これまで生み出した二振りの刀と一本の太刀を使った、苛烈な連続攻撃で応じた。
「第二の首、テスカトリポカは八岐大蛇の首の中でも、たいがいに変わり者だった。面倒見のいい奴で、先代の弥三郎以上に、妾も世話になった記憶がある。正直、今こうして人間側に助力していることを知られたら、裏切り者と罵倒されて殴られそうだよ」
「そ、そうなんですか。……あれ?」
遥花は不意に、前進同盟のビキニアーマーを着た女戦士セグンダを思い出した。
彼女によって遥花と紗雨が無力化されたあと、交戦した生徒の大半は服を破かれたり、気絶させられるだけで済んだ。
そんな中、唯一人だけ、セグンダが感情的になって攻撃を加えた相手が賈南だったらしい。
「結局、妾と弥三郎は、部下のモンスターも死人兵も戦友も見捨てて、尻に帆かけて逃げだした」
最後に賈南が聞いた、第二の首の最期の声は、悲嘆に満ちていた。
『ああ、スサノオの役名を持つ者よ。お前が運命の相手であれば良かったのに』
『知るか。スサノオの宿敵はファフニールだし、僕が望む運命の相手は〝竜ではなく人間〟だ。いつか現れるだろう、〝僕の前進を否定する誰か〟だ。もしも来世があるのなら、別の相手を探せ』
かくして、八岐大蛇の首八本のうち七本を動員した攻勢はカムロによってくじかれ、地球とクマ国には一時の凪が訪れた。
「カムロ様が言う〝僕の前進を否定する人間〟が運命の相手ってどういう意味でしょうか?」
「アイツの考えはわからん。スサノオの宿敵と名指ししたあたり、あれだけ嫌悪して恐れているファフニールすら運命の相手とは見ていないようだ」
「じゃあ、まさか」
遥花は彼女の教え子であり、カムロが親しげに話しかける彼の弟子でもある少年、出雲桃太を見てゴクリと生唾を飲み込んだ。
「ともあれ、妾と弥三郎は地球へと逃げのびたが、いまなお続く雌伏を余儀なくされた。いずこかで再生した他の首もそうだろう。それぞれのやり方でカムロへの復仇を目論んでいるはずだ」
まあ既に三体が出雲桃太に討たれたわけだが、とオチをつけ、賈南はカムロと八岐大蛇の戦いを語り終えた。
「カムロは、三世界最強であることを証明した。だから、獅子央焔は対抗策を求めたのよ。義父殿が地球に辿り着いたばかりの、ボロボロだった父と妾を保護したのは、いずれ彼奴が起こしうる三世界分離計画をくじくために他ならない」
あとがき
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