第506話 カムロ 対 八岐大蛇!
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「ああ、だが、妾の先代たる首、伊吹弥三郎だけはなんとなく不穏な気配に気づいていたのかも知れん。久方ぶりに七本の首が集まってカムロを狩ろうと決まった時、妾に〝八岐大蛇・第一の首〟たる資格を譲って前線に立つことを禁じた。おそらくは、石橋を叩いて渡るような保険に過ぎなかったのだろうが、な」
鬼の首魁。その化身たる少女、伊吹賈南は、かつての部下であり、今は担任教師である矢上遥花に対し、シニカルに顔を歪めて語った。
およそ半世紀前、日本国が異界迷宮カクリヨから得た〝鬼の力〟で新たな技術を生み出し、高度経済成長を迎えていた頃――。
もっとも新しい八岐大蛇の首、伊吹賈南を最後尾に据えた七体のドラゴンが率いる軍勢は、カムロに解放されつつあったクマ国を練り歩いた。
「妾にとっては初陣だったが、まるでイナゴや害虫が畑を食い尽くすような有様だった。交戦した里も降伏した里も区別なく、家を壊し、家財をくだき、ありとあらゆるものひっくり返して飲み込んだ」
賈南にも羞恥心があった。だから、他の首達が家族を守ろうとするクマ国住民を……父親をむさぼりくい、必死で我が子を庇う母親を爪で引き裂き、泣き叫ぶ赤子をふみつぶしたことは黙っていた。
「今では胸糞悪いが、当時の妾は平然と眺めていたよ」
八岐大蛇の軍勢は、たまたま進行方向にあった里をブレスで焼き払い、毒の沼に沈め、死体を操り人形にしながら、レジスタンスを率いる青年カムロを探して死をばら撒いたのだという。
『次はキソの里だったか、あの集落も捻り潰してやる』
『助けて、助けてっ』
クマ国の民衆が逃げ惑い、ある者は戯れに崩された建物の下敷きとなり、ある者は下っ端のモンスターに喰われ、ある者は動く死体に殺される中――。
『大丈夫だ、助けに来た!』
『『ああっ。カムロ様!』』
捜索対象だった、牛頭の仮面をかぶる足の見えない青年は、隠れるでもなく逃げるでもなく、竜の犠牲になった人々を救おうとすっ飛んできた。
『『そうか、お前がカムロだな。愚かな獲物め、自ら狩られに来たか!?』』
カムロは七体もの首に包囲されてなお、キソの住人を逃すため、幽霊という種族にも関わらず、里を照らす太陽を背に堂々と宣言した。
『そうだ、僕がカムロだ。だが、勘違いしているようだから教えてやる。お前達が僕を狩るんじゃない。僕がお前達を退治するんだ。〝生太刀・草薙〟!』
賈南を除く六体の首が放った六色のドラゴンブレスを、カムロは右手から発した爆発的な衝撃波で相殺した。
『仇は必ずとる。皆の死に報いてみせる』
『エサ風情がおごるな。八つ裂きとなるがいい』
カムロと八岐大蛇の首・七本は、キソの里付近の河原で激突。
「最初に動いたのは、第三の首、スペースドラゴンじゃ。奴は目から重力波レーザーを放ち、周囲の空間をねじ曲げながら進む二条の光で、巻き込まれた下っ端のモンスターや死人兵を蒸発させた。が、狙ったはずのカムロは、なぜか光の真ん中を突っ込んできた」
「すみません。それって抜けられるものなんですか?」
賈南の思い出話の突飛さに、遥花は首を傾げる。
「触れただけで崩壊する重力異常の狭間を突っ込んできて無事な変態なんて、妾もカムロ以外に知らん。巻き込まれた森やら川やらがあとも残さず消し飛ぶ中、彼奴めはスペースドラゴンの懐に入り、全長二〇メートルくらいあった怪獣のごとき身体を、雷と炎、二振りの剣で八等分に切り刻んでしまった。まったく血も涙もないと思わないか?」
あとがき
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