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第504話 賈南の思い出話

504


「フッ。初代勇者の看板は伊達ではないということか。どうやら我が義父、獅子央焔ししおうほむらの予測は半世紀を越えて的中したらしい」


 鬼の首魁、八岐大蛇やまたのおろちのエージェントを自称する少女、伊吹賈南いぶきかなんが、白い流星雨が彩る星空の下で艶のない黒髪を広げながら言い放った言葉は、彼女の元部下であり亡き獅子央焔の弟子でもあった矢上遥花やがみはるかにとって、まさしく晴天の霹靂へきれきだった。


「焔様は、カムロ様が三世界を分離したいと願っていることを知っていたんですか? え、でも、そういう風に方針を変えたのは最近で、いくら焔様でも未来予知までは――」

「アハハっ。なんだそれはっ。未来予知など必要ないさ。探索と発見によって、地球、異界迷宮カクリヨ、異世界クマを繋いだ獅子央焔ししおうほむらは、八岐大蛇以上にカムロを警戒していた。ゆえに彼奴きゃつを研究し、いずれ〝あるべき世界〟――三つの世界をバラバラに戻すという答えに至ると確信していた」


 遥花の反応がよほどに愉快だったのか、賈南は腹を抱えて笑い始めた。


「こんな流れ星の綺麗な夜だ。たまには昔話に興じるのも悪くない」

「はい、教えていただけますか?」


 遥花と賈南は、星が雨のように流れる丘上の野原で昔に思いを馳せた。


「半世紀前。獅子央焔が異世界クマ国を発見するや、冷戦時代には西側諸国と呼ばれていた地球の国々は恐れおののいた。

 なぜならカムロ達は、〝鬼の力〟を利用した内部闘争で自滅したはずの国々、東側諸国の残党を保護していたからだ。

 地球は、異界迷宮カクリヨに続き、第三の異世界クマ国も侵攻してくるのではないかと恐れたのよ」

「モンスター侵攻で冷戦が終わった直後です。そんなデマが流れても不思議はありません」


 遥花は悲しげにつぶやいたが、賈南は意地悪な笑みを浮かべた。


「アハハッ。西側諸国の懸念は有る一面で正しかったよ。〝鬼の力〟にあてられていたのもあるだろうが――逃げ延びた東側諸国残党を率いる指導者達は、クマ国に潜みながら、いわゆる二虎競食(にこきょうしょく)の計――を目論んでおった」


 二虎競食の計とは、二匹の飢えた虎の間にエサを投げ入れて、相争わせる。一匹が倒れ、勝った一匹も傷だらけとなれば、最後に両方を討ちとって総取りもできる――という策謀を指す。


「つまり、東側諸国の亡命者達は、クマ国と地球の西側諸国をぶつけて弱らせ、しかる後に侵攻して、両世界を支配しようとしていたんですか?」


 遥花が額から流れる冷や汗をハンカチでぬぐいながら問いかけると、賈南は白い歯を見せて微笑む。


「バカバカしいことよの。そんな作戦が容易く成功するならば、とっくに妾たち八岐大蛇が三世界を支配している。

 確かにクマ国民は騙しやすいお人よしだが、連中は度がすぎている。煽動者せんどうしゃの思惑とは裏腹に、カムロにもクマ国民にも領土欲など無かった。

 亡命者たちがぶちあげたプロパガンダは、馬耳東風ばじとうふうとばかりに聞き流されて策謀は意味をなさなかった。もっとも、その結果を知った地球諸国はクマ国を軽んじたのだがな」


 地球と異世界クマ国、二つの世界の衝突は避けられたが、今の危うい状況の発端となったのかも知れない。


「だがな、日本の冒険者組合を創った男。獅子央焔だけは、もうひとつの可能性に気づいた。カムロを筆頭とするクマ国が、地球の東西冷戦に巻き込まれることに呆れ、交渉断絶に方針転換するのではないか、とな」

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[一言] >カムロにもクマ国民にも領土欲など無かった 邪竜「確かにクローディアスに領土欲はないね。彼はヒトが大好きなんだよ。特に僕が一番だね!」
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