第502話 クマ国観光中
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「いやー、人気者で困ってしまうなあ」
「思えば思えば異界迷宮探索とテロリスト相手の戦闘続きで、こうやってゆっくり旅することもなかったものなあ」
「こうやって感謝されると、異世界であっても嬉しいものだな」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、クラスメイトの林魚旋斧、関中利雄、羅生正之らが、クマ国の民衆と笑顔で交流しているのを見て、ほっと胸をなで下ろした。
(ああ良かった)
桃太は、牛頭を模した仮面をかぶる異世界クマ国の代表カムロが、内心では『地球とクマ国、異界迷宮カクリヨの永久分離を望んでいる』ことを改めて肝に銘じたが、目の前の光景は彼にとって救いの光となった。
(カムロさんは、俺たちがクマ国の人たちと触れ合える時間を作ってくれた。なんとか、このまま維持できる方法を探さなきゃ)
桃太の決意を知ってか知らずか、カムロは彼に向けて手を差し出した。
「桃太君、名残惜しいがそろそろ出立の時刻だ。次の転移門へ向かおうか」
「カムロさん。そう言えば、ワープゲートなしに他の里へ移動はできないんですか?」
桃太の何気ない問いに、カムロは苦々しい声で答えた。
「出来なくはないが、里同士を繋ぐ道路も鉄道も、地球に比べると少ないね」
「何でまた? あっ!」
カムロが八岐大蛇のエージェントを自称する少女――伊吹賈南を思い切りにらみつけていることに勘づいて、桃太はそっと二人の間に割り入った。
「……桃太君、お金と資材は限られているんだよ。あと〝鬼の力〟の悪影響でコンピュータも重機も使えないのは本当に困る。あんなものをばらまいた八岐大蛇は、それだけでも万死に値する」
「は、はいっ」
かくして桃太と冒険者パーティ〝W・A〟の団員達は、カムロに案内されるまま、寝台列車で〝転移門をくぐり、クマ国各地を探訪――。
「ここアワの里は、梅雨明けのお祭りが有名なんだサメエ。桃太おにいさんも一緒に踊るサメエ」
「もちろんだよ紗雨ちゃん。うわっ、凄い人だなあっ」
桃太はサメの着ぐるみをかぶる銀髪碧眼の少女、建速紗雨と二人で舞踊祭に参加し、一晩中踊り回ったり――。
「コケーッ。ここナガサキの里では、鎮魂のために手作りの風船を空へ飛ばすそうですわ」
「桃太お兄様も一緒に作りましょうっ」
「え、海に流すんじゃなくて、空へ飛ばすの? 面白いねっ、やってみよう!」
赤い髪を二つのお団子状にまとめた年上の少女、六辻詠や、山吹色の髪を三つ編みに結った年下の少女、呉陸羽と共に鎮魂祭に参加したり――。
「出雲君。ナニワの里では、川の中へ花火を投げ入れるそうよ」
「出雲。空じゃなくて、水中で花火を咲かせるんだって。一緒に行こう」
「ああ是非見たい。それにしても、クマ国だと色々文化が違うなあ!?」
「BUNOO! BUNOO!!」
虎に似た式鬼ブンオーを連れたサイドポニーの目立つ少女、柳心紺や、瓶底メガネをかけ白衣を着た少女、祖平遠亜らと、水中花火を鑑賞したり――と、旅を満喫した。
そして、西暦二〇X二年、八月二四日の夜。
「桃太君。明日はいよいよウメダの里に到着するが、今日はちょうど流星群が観測できる日なんだ。ここエチゼンの里で見る星空は絶景だよ」
あとがき
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