第501話 桃太、歓迎の旅路
501
西暦二〇X二年八月一九日。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と冒険者パーティ〝W・A〟は、異世界クマ国クマの里で療養中の五馬乂と三縞凛音を置いて、カムロと共に寝台客車つきの蒸気機関車で旅だった。
「ようこそ出雲桃太様! そして地球日本の皆様!」
「カムロ様、紗雨姫、お帰りなさい!」
クマ国の主要な里は鉄道とワープゲートで繋がっており……、桃太達が乗った列車が新たな街に入るたび、歓声が響き渡った。
「カムロ様と紗雨姫の隣にいらっしゃるのが、出雲様っ。なんでも、あの八岐大蛇の首をすでに三本も倒した英傑だとか!」
「桃太さん、ヨシノの里のおばあちゃんを助けてくれてありがとう」
「ありがとう。みんなの役に立てたなら嬉しいよ」
桃太は降り立った駅で歓迎され、土産物や花束を受け取ることになった。
「あはは、照れるなあ」
桃太は地球でもヒーローであったが、クマ国の町民達のように、直接的な歓迎を受けるのは久方ぶりで、喜びのあまり思わず破顔した。
「桃太おにーさんは大人気サメエ」
「テロリスト団体〝K・A・N〟の陰謀をくじき、早期にヨシノの里を解放できたのは、桃太君のおかげだ。存分に胸を張ってくれ」
桃太が憎からず思う、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨も、彼女の養父であるカムロも満足そうに彼の隣で微笑んでいる。
「カムロ様が必殺技の〝生太刀・草薙〟を伝授したって本当かな?」
「もう一人の直弟子、五馬乂様も、桃太様を相棒と呼んでいるそうだし、現に大蛇の首を倒しているじゃないか」
クマ国においても、八岐大蛇討伐は、カムロ以来の偉業だ。
桃太の武名と功績は鳴り響き、地球人と見分けがつかない里人はもちろん、猫耳や犬耳の生えた獣人、鱗をまとう爬虫類人といった一風変わった姿の住民達からも喝采を受けていた。
「桃太お兄様、素敵です!」
「さすがは、我が執事!」
これには、桃太を兄のように慕う呉陸羽や、執事にスカウトする気満々の六辻詠もニコニコ笑顔を浮かべた。
「紗雨姫との結婚も間近とか」
「亡くなられた親族の方々も、泉下で喜んでいるに違いない」
とはいえ、入ってくる情報が良いものばかりとは限らない。
「遠亜っち、外堀がガンガン埋められている気がするよ」
「心紺ちゃん、心配しすぎ。肝心の紗雨ちゃんがあれだから、埋まったのはお堀じゃなくて、近所の水溜りみたいなものだよ」
桃太と親しい柳心紺と祖平遠亜は、カムロが桃太をクマ国へ引き抜こうとしていることを嗅ぎつけて、心をざわめかせていたし……。
「「ちいっ。話におひれがつきすぎているぞ!」」
桃太が歓声に包まれる光景を見て、クラスメイトである焔学園二年一組の生徒達はいつものように反発した。
が、今回は若干、その後の展開が違ったようだ。
「あれが冒険者パーティ〝W・A〟のみなさんね」
「あの若さでかのヤタガラス隊の精鋭と互角以上に戦ったそうよ」
「ヨシノの里を侵略した盗賊の主力部隊を真っ先に倒したと聞いたぞ」
行く先々の駅で、彼や彼女達もまた大人気だったため、すぐに機嫌を直した。
「いやー、人気者で困ってしまうなあ」
「思えば異界迷宮探索とテロリスト相手の戦闘続きで、こうやってゆっくり旅することもなかったものなあ」
「こうやって感謝されると、異世界であっても嬉しいものだな」
あとがき
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