第499話 説得策、仲介者はいるのか?
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「乂、紗雨ちゃん。カムロさんを説き伏せるために、クマ国で頼れそうな人はいない? ほら葉桜千隼さんの上司とか、呉栄彦さんが以前戦ったというヒメジの里長さんとかはどうだろう」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太の提案に対し、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨と、金髪の長身少年、五馬乂は真顔で向き合った。
「ガイ、男を見せるサメ」
「サメ子、レディファーストだ。譲るぜ」
「それって元は弾除けの意味って俗説があるのは、知っているサメエ?」
二人は、中庭の白い石畳や石灯籠に吹きつけてくるビュービューという山風の音に隠れて、身振り手振りで先陣を押し付け合い、やがて揃って肩を落とした。
「桃太おにーさん。千隼ちゃんの上司のアカツキさんは、ジイチャンが一番頼りにする部下だけど、諜報部隊ヤタガラスの長だけあって、クマ国の治安を一番大事に思っているサメ。だから、地球の人たちが暴れた以上、力になってはくれないサメエ」
「……紗雨ちゃんの言う通りかも。この前、業夢さん達元勇者パーティ〝K・A・N〟がヨシノの里を占拠しようとしたばかりだものなあ」
クマ国を守る事実上の警察組織トップとしては、揉め事ばかり起こす地球人に対して、内心では塩を撒きたいと思っていても不思議はない。
「相棒、ヒメジの里長、コウエン将軍も相談相手には向かないぜ。あのひとは地球の冷戦時代に滅んだ国で生まれたらしいが……。クマ国に亡命する前に酷い光景を見たらしく、今じゃ反地球閥の急先鋒だ。むしろ永久分離を喜ぶだろうぜ」
「乂。俺もカムロさんから、異界迷宮カクリヨと繋がった当時、東側の国々は〝鬼の力〟を利用しようとして、内戦でえらいことになったと聞いているよ。さすがに無理は言えないか」
桃太はあてが外れて肩を落としたものの、この場に残るもう一人、三毛猫に化けた少女、三縞凛音には妙案があるらしい。
乂の頭の上で香箱座りしながら、得意げに鳴いた。
「ニャア、ナ、ナー(でも、説得を諦めるのは早いわよ。仲介役が必要ならば、桃太くん達が向かう目的地、クマ国交通の要衝、ウメダの里にいる田楽おでんさんならどうかしら?)」
「へ、凛音さん。誰だって?」
桃太は、凛音から伝わってきた素っ頓狂な名前にびっくりした。
「サメーっ。おでんオネーサンがいたサメ。あの人のいうことなら、ジイチャンも聞くかも知れないサメエ?」
「リンもサメ子も正気か? あの〝姉なる変人〟が協力してくれるとは思えないぜ」
クマ国で生まれた紗雨や、幼い頃から過ごした乂だけでなく、地球から亡命して日の浅い凛音まで知っているとなると、かなり有名な人物なのだろう。
「田楽おでんって、随分と変わった名前だね?」
「相棒、たぶん偽名だ。それに性格も変わっているぜ」
桃太の感想に、乂は困ったように肩をすくめ、紗雨が彼の言葉を引き継いだ。
「オネーサン……田楽おでんさんは、クマ国皆んなのお姉さんを自称しているんだサメエ。あと、会いたい場合は屋台を引いてフラフラしている所を見つけるか、ウメダの里にある迷宮、〝ウメダのすごいジャングル〟の最奥まで行かないと駄目なんだサメエ」
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