第498話 裏切り者、オウモの真意は?
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「乂、紗雨ちゃん、凛音さん。カムロさんを力づくで止めるのは、第一であっても最後の手段。師匠は簡単に勝てる相手じゃないし、第二の手段として三世界の分離を阻みたい」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は中庭に降り注ぐ夏の太陽光に汗をかきながらも、強引な手段は保留するよう三人を押し留めた。
「それで、地球、異世界クマ国、異界迷宮カクリヨを永久分離するなんて簡単なことじゃないと思うんだけど、カムロさんが何をやろうとしているのか、心当たりはない?」
桃太は少しでも情報を得られればと期待したものの、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨も、金髪の長身少年、五馬乂も、三毛猫に化けた少女、三縞凛音も揃って首を横に振った。
「サメエ。そういうサメ映画じゃないことはわからないんだサメエ」
「オレも不良映画や西部劇に関係ないことを聞かれちゃ困るぜ。メイビー(ひょっとしたら)、ジジイの片腕だったオウモなら知ってるかも知れない」
「オウモって人は、ワタシが亡命した時には、既にクマ国を裏切って、反政府団体〝前進同盟〟の長をやっていたんでしょう? どこの国も大変ね」
桃太は凛音の述懐に、判然としないひっかかりのようなものを覚えた。
「うーん。オウモさんはなんで裏切ったんだろう? いや、そもそも裏切っているのかな。カムロさんと敵対してるのに、妙に助力しているというか、カムロさんが見落としていた死角部分に、敵の立場から光を当てている気がする」
そう、オウモはカムロと敵対しているはずなのに、よくよく考えてみると協力的なのだ。
「サメエ。言われてみれば、前進同盟への対策が、ジイチャンが苦労した地球からの迷惑客や文化破壊犯の対策に繋がってるサメ」
「でもよ、相棒。前進同盟が余計な支援をしなけりゃ、ヨシノの里ののっとりは起きなかったろう?」
「乂の言う通りだけれど、彼女達が途中で支援を打ち切ったことで、早期蜂起に繋がって、占拠される前に逮捕できたわよ」
桃太達はオウモと前進同盟の思惑について、あーでもないこーでめないと推測を重ねたものの……。
「ダメだ。一旦、置こう。次に接触できたら、どうにか穏便に降伏してもらう。オウモさんや黒騎士一度は共闘した仲なんだ。カムロさんがやろうとしている、三世界を分離する手段について聞き出せるかも知れない」
これと言った答えは出せず、第二の手段も一旦保留となった。
「こうなったら、第三の手段はやはり王道の説得だ。カムロさんと腹を割って話して、リスクの高い計画は取りやめてもらう」
「で、相棒は直接話し合って、説得できそうだったか?」
「腹を決めた時のジイチャンは頑固サメエ。テコでも重機でも動かないサメエ」
「……カムロさんは、迷惑をかけてくる隣人からフェードアウトしたいわけで、ワタシや桃太君のような地球側の人間が話しても通じないんじゃないかしら?」
そうなのである。
過激な活動家のやらかしは、あくまで最後のひと押しとなっただけで、カムロは半世紀にわたる積み重ねで地球に失望しているようだ。
「乂、紗雨ちゃん。カムロさんを説き伏せるために、クマ国で頼れそうな人はいない? ほら葉桜千隼さんの上司とか、呉栄彦さんが以前戦ったというヒメジの里長さんとかはどうだろう」