第496話 桃太、紗雨と乂に相談する
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西暦二〇X二年八月一七日午後。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、牛頭に似た仮面を被った男、カムロと会談し、地球日本から異世界クマ国への親書配達と会談任務を果たした。
しかし、その結果は望ましいものではなかった。
『地球諸国は、我々が何度公表を訴えてもクマ国の存在を隠し通そうとしただろう? ならば、もうそれでいい。地球に迷惑をかけるオウモと〝前進同盟〟の存在はこちらでケリをつけるし、八岐大蛇は僕が命をかけても仕留めよう。その上で、地球、クマ国、異界迷宮カクリヨが二度ど交わらないよう完全に分離すれば、ベストではないにせよベターな未来が得られるんじゃないかな』
桃太の師匠であり、異世界クマ国の代表でもあるカムロは、自身の命と引き換えにしても八岐大蛇を討伐し、重なり合った三つの世界の永久分離を望んでいると明かした。
この目標が果たされた場合、カムロという要を失ったクマ国に甚大な影響が出ること必至だが……、〝異世界の技術と資源〟に依存した地球社会も崩壊しかねない現実がある。
(俺一人の手では、到底解決できない)
桃太は状況を打破すべく……。
カムロの養女である銀髪碧眼の少女、建速紗雨。
相棒たる金髪の長身少年、五馬乂。
三毛猫に化けた少女、三縞凛音。
自身がもっとも頼みとする三人を旅館の中庭に呼び出して相談した、のだが。
「桃太おにーさん。よく教えてくれたサメ。おのれジイチャン、桃太おにーさんと会えなくして、サメ映画を見えなくしようだなんて、お天道様がゆるしてもこの紗雨が絶対に許さないんだサメエ」
「シャシャシャ。サメ子の言う通りだぜ。クソジジイ、そんなに死にたいなら遠慮は無用。いますぐ屋敷を焼き討ちして冥土の川を拝ませてやるぜっ」
「待って、それだめえええ」
「ニャフー(このおばかっ)」
紗雨と乂は感情的の赴くままにすぐさまカムロの元へ突撃しようとしたため、桃太と凛音が飛びかかり押さえ込んだ。
「はなすサメエっ。今日という今日はジイチャンを許さんサメ。サメアッパー百連発をお見舞いなんだサメエ」
「リン、武士の情けだ。クソジジイの横っ面をレッツファイヤアア」
桃太は凛音と力を合わせて、暴れる紗雨と乂を必死で取り押さえつつ、牛の仮面をかぶった師匠の姿を思い浮かべた。
(しまった。紗雨ちゃんと乂への相談は、自爆装置のスイッチを押すことだったのか)
つまるところ、カムロは桃太が紗雨と乂に相談するところまでお見通しだったのだろう。
「俺と冒険者パーティ〝W・A〟は異世界クマ国へ親善のために送られた使者なんだ。今、紗雨ちゃんや乂が問題を起こしたら、それを大義名分に地球日本との交流を途絶しかねない。だいたい二人とも、師匠と本気でやって勝つ自信があるのか?」
「ニャン、ナー(そうね。今のワタシ達じゃ本気のカムロさんには敵わないし、彼はいつでも鎖国政策を取ることだってできるのよ。日本以外の国々がクマ国でやらかした犯罪の証拠を集めているのも、きっとその為の理由づけよ)」
桃太と凛音、二人がかりの説得が功を奏したか、紗雨と乂はようやく暴れるのをやめたものの……。
旅館の中庭中央にある鯉の泳ぐ池にかけられた、赤い橋の欄干に背を寄せながら、ぷうと頬を膨らませた。
「桃太おにーさん、リンちゃん。ジイチャンはそんな陰険な真似なんて、……するサメね」
「ダァムイット(くそったれ)! あのクソジジイは必要とあれば、とことん性格悪く立ち回れるからな」
あとがき
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