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第492話 三世界の岐路

492


「カムロさん。あるべき姿に戻すって、リセットするってどういうことですか?」

「桃太君。そりゃあもちろん、利権やら執着やらで雁字搦がんじがらめになった地球、クマ国、カクリヨ。三つの世界を永久に分離させて、始まりのゼロに戻すことだよ」


 額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太いずもとうたは、師匠である異世界クマ国の代表カムロが、牛頭に似た仮面の口元から発した言葉に愕然がくぜんとした。

 

(地球の自称活動家達が、異世界クマ国の人命を危ぶめたのは確かだ。

 逆にクマ国人のオウモさん達〝前進同盟ぜんしんどうめい〟が、地球上で反社会組織を支援したのも事実。

 異界迷宮カクリヨが両世界にとって危険なのもその通り――。

 だからって、永久分離した日には三世界がぐちゃぐちゃになってしまう)


 永久分離によるリセットは、地球とクマ国による半世紀以上の積み重ねを、先人達が流した血と汗を台無しにすることだ。


「は、話があさっての方にとんでませんか」

「そうかな? 僕は最初から、クマ国と地球には変化が必要だと訴えているだけさ。異世界間の交流で互いに学び合い、刺激を受けた。その上で本来のスタート地点に帰ってやり直すというのは、双六すごろくにたとえても悪くないあがりだも思うよ。僕はクマ国の守護霊だからこの世界を長く離れると消滅する危険性があるんだが、八岐大蛇を葬り去れるなら構わない。……安心して黄泉路よみじに逝ける」

「死ぬなんて滅多なことは言わないでください!」


 桃太は即座に抗議したものの、己の命にすら見切りをつけたカムロの気取りのない口調が、心底恐ろしかった。

 

(まずいまずい、カムロさんの目指すゴールは最悪だ。消滅と引き換えに八岐大蛇を討伐するだって? 師匠が死んでしまうのはもちろん嫌だし……。三世界が分離した日には、紗雨さあめちゃんと会えなくなる。がい凛音りんねさんと別れなくちゃならない。賈南かなんさんとファフ兄の身が危うい。そして、日本に、いや地球にどれだけの被害が出るかわからない!)

 

 桃太はこれまでも〝変わる〟だの、〝変える〟だの、〝革命〟だのとうそぶく、八岐大蛇の首に憑かれた者達と対峙してきた。

 彼らの発言に嘘はなかったとしても、それはあくまで発言者個人やグループに都合の良い変化だ。

 変わることや変えることを、あたかも無条件に良い物であるかのように看板をおったてて、他の万人にとって悪い変化をされてはたまったものではない。


(凛音さんや啓介さんの時と同じだ。たとえ命を賭けられても、認められないものがある。

 そうか、おねえさん幽霊が言っていた、〝カムロをお願いね〟ってこういうことか。

 日本政府と冒険者組合が友好を念押しする親書を送ったのも、〝前進同盟〟の暴走や地球人活動家の暴挙を見て、クマ国が路線変更を考え始めたのを感知したからか!)


 桃太はカムロが先ほど告げた台詞の真意をおぼろげながら理解した。


『きっかけは討論でも殴り合いでも構わない。相互理解が成立するならそれでよし、譲歩じょうほし合える部分は譲歩しあうことで関係は深まる。……それでも、それでも相入れないのなら距離をとるしかないがね』


 カムロはおそらく、桃太にこう言いたいのだろう。


(カムロさんの死と三世界の分離を止めたいなら――、討論でも殴り合いでもいい。自分を納得させてみせろ、と!)


 桃太は、地球、異世界クマ国、異界迷宮カクリヨ。三世界の新たな岐路きろの前にいることを自覚した。


あとがき

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― 新着の感想 ―
[一言] >(カムロさんの死と三世界の分離を止めたいなら――、討論でも殴り合いでもいい。自分を納得させてみせろ、と!) 乂「つまり、納得させられればカムロのジジィはこれからも残業し続けるって事だな。ジ…
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