第491話 リセット、危険な選択
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「僕がうまくやれたのは、前世界滅亡のあと、クマ国創世を成し遂げたスサノオの知識という解答手引書があったからじゃないかって」
異世界クマ国の代表カムロは、仮面の奥に隠した瞳の色を悟られたくないのか、額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太からそっと視線を逸らした。
「そんなことはない!」
桃太はカムロの言い分が納得できなかった。なぜなら。
「俺は一〇〇〇年前に武神スサノオと呼ばれた人がどれだけ凄かったかなんて知らない、わからない。でも、実際に八岐大蛇を追い出して、クマ国を取り戻したのは、他の誰でもないカムロさんだ」
桃太は、とうにいない人物と比較して肩を落とす師匠カムロに訴えかけた。
今、クマ国には、客として訪れた伊吹賈南と短剣に封じられたファフ兄を除き、八岐大蛇はいない。
六体もの化身を討伐した偉業は、過去の偉人など関係なく、目の前の男が成し遂げたことに他ならない。
「桃太君はそう言ってくれるけど、僕の受け継いだ記憶にある限り、戦い始めた頃のスサノオは体も技も心も弱かったが執念で国を建て、竜を打ち払った――。
だが影武者である僕はどうだ? 彼より大きな力を与えられ、彼の経験という後押しを得て、彼が敷いたレールを駆けたというのに、半世紀たってもいまだに解決できていないんだ」
「だったら頼ってください。俺はカムロさんの力になりたい」
桃太は身を乗り出して、カムロの手をとった。
師匠と弟子、二人の力を合わせればどんな困難でも乗り越えられるのだと信じたかった。
「そうだね、何もかもを一人で解決しようというのは傲慢だ。
だから禊を済ませた後のことは、次の指導者に任せようと思う。
桃太君が三つの首を落としてくれたのはまたとない僥倖だ。僕はこのチャンスを生かして八岐大蛇を完全に滅ぼし、重なり合った三つの世界を〝元のあるべき姿に戻す〟。つまり、リセットすることを最後の仕事としたい」
カムロのいっそ爽やかな返答に、桃太は勢いよく頷こうとして、うなじと背中から冷や汗が滝のように流れ落ちるのを自覚した。
「ま、待ってくださいっ。それじゃあ、まるで……」
桃太は尊敬するカムロの姿が一瞬、地球日本に混乱と死をばら撒いた〝四鳴啓介〟とダブってしまい、ぶんぶんと首を横に振った。
「カムロさん。あるべき姿に戻すって、リセットするってどういうことですか?」
「桃太君。そりゃあもちろん、利権やら執着やらで雁字搦めになった地球、クマ国、カクリヨ。三つの世界を永久に分離させて、始まりのゼロに戻すことだよ」
あとがき
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