第486話 異世界間交流までの困難
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「地球諸国がクマ国との交渉に外交官を派遣した際、同行した非政府組織だか、非営利組織だかの構成員が『機械文明に毒されていない環境を守らねばならない』と啓蒙者きどりで地球から内部空間操作鞄を持ち込み、田んぼにスクミリンゴガイという地球産のジャンボタニシを投げ入れたり、畑に発酵作業の終わっていない糞尿をばら撒いたりしたんだよ」
「……この写真の人たちは、農業のイロハすら知らないんですか? スクミリンゴガイは水を汚すし苗を食べるし、ましてや発酵の終わってない糞尿なんて肥料どころか毒にしかならない!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、牛に似た仮面をかぶる異世界クマ国の代表、カムロが提示した写真を見て、思いも寄らぬ地球人の蛮行に仰天した。
「どうやらコイツらは農家ではなく、自称、環境活動家らしいね。だから、自分達が土と砂にまみれる気はさらさらなく、ただ写真映えのする派手なパフォーマンスで人目を引きたかったのだと自供したよ。……とはいえ、内部空間操作鞄まで使っての大規模犯罪だ。やられた方はたまったものではないがね」
「祖平さんのスーツケースや、俺達の水着を入れた鞄と同じやつ……。大型コンテナ並の物量を運べる鞄で、そんな悪事をやらかしたんですか? 炎上系のソーシャルネットワーキングサービス利用者もいるって聞きますけど、なんてやつらだ。俺もコウエン将軍が怒るのももっともだと思います!」
桃太自身、一旗あげようと冒険者になった過去があるものの、実家が兼業農家なために苦労は身にしみている。
元々、稲の苗を喰らうスクミリンゴガイに汚染された地でどうにか雑草を食べさせるよう工夫したり、糞尿を肥溜めなりに集めて肥料化したり、と手順を踏むならばわかるが……。
ろくな知識もなく、上っ面の思い込みと名誉欲だけで田畑を潰しにかかるなど正気の沙汰ではないと、犯罪者達を問い詰めたくなった。
「ああ。スクミリンゴガイには寄生虫が潜んでいるし、発酵前の糞尿も言うに及ばずだ。本人達にとってはただの広告でも、田畑を荒らされれば里の存亡に繋がりかねない。桃太君も知っての通り、クマ国は地球と比較して人口が少ない上に、〝鬼の力〟の呪いの悪影響で大型機械が使えないからね」
地球の常識は、クマ国の常識とは限らない。
身勝手な活動家達が両世界に与えた余波は、深刻だった。
「残念ながら、地球との折衝をはじめてから、こういったトラブルは序の口だ。
他にも、里で愛される神木を折る――。
立ち入り禁止の聖域に踏み込み、ゴミをばら撒く――。
地元で愛される石像に塗料をふきつけ、絵画に泥をかける――。
こういった破壊活動を、社会への啓蒙だの正義の公開だとのたまう輩が活動家を名乗っているが、我々からすれば極めて非常識だ。あまりに事件が多発するから、それぞれの国の政府に直接クレームを入れたところ、現場の外交官が勝手に活動家を同行させていたことが判明した」
「うわあ。活動家は最初から宣伝に利用する気満々じゃないですか」
クマ国の被害を具体的に聞いた桃太は頭を抱えた。
これまでの旅の途中で、クマ国が異界迷宮カクリヨとのゲートを封鎖していると、相棒の五馬乂が言っていた情報も深掘りされた。
どうやらクマ国の反政府組織〝前進同盟〟への対策だけが、理由ではなかったらしい。
「まあ我が国、クマ国が異世界間ゲートを封鎖し、骨格調査や指紋認証をはじめとする鬼術調査を導入、入国審査を強化したことで、自称活動家どもは針の筵となり、それぞれの国で報いを受けているようだがね」
あとがき
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