第485話 地球からの来訪者とトラブル
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「本当なんですか? オウモさん達を貶めようとする捏造なんじゃないんですか?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太はかつて交流のあった女性の行動が信じられず、思わず疑問を呈した。しかし。
「葉桜たち若手隊員には無理を強いて悪いと思っているが、実は防諜部隊ヤタガラスのベテラン隊員は、オウモ達〝前進同盟〟の動向を探るため地球に派遣していたんだ。冒険者組合代表の獅子央孝恵らも協力してくれた結果、この写真のように――裏を取ってくれたよ」
異世界クマ国の代表カムロは、牛に似た仮面の奥から苦み走った声で淡々と話しながら、オウモらしきフルプレートアーマーを着た人物が危険団体と談笑する写真や、その結果起こされた惨劇のレポートといった証拠品を、次々と文机に並べた。
「そして、〝前進同盟〟が、たとえ指名手配ずみの反社会組織であっても、地球上で悪行をやらかした場合、管理責任を問われるのは我々クマ国だ」
桃太は、カムロがにこぼした言葉に冷や汗をかきながら頷いた。
いくら関係ない犯罪者だと説いても、地球の国々は納得しないだろう。
「クマ国にも野蛮な時代はあったし、地球史だってそうだろう。だが目的が正しいからといって、どんな手段も正当化されるわけじゃない」
桃太は、これまで打ち破ってきた強敵達を思い出す。
若き研修生達の命を生贄に捧げ、私利私欲を求めた黒山犬斗――。
劣等感に苛まれるがままに、日本全土に電気異常を振りまき、事故と混乱を撒き散らした四鳴啓介――。
老いたる野望のままに、地球日本でクーデターを引き起こし、クマ国ヨシノの里を乗っ取ろうとした七罪業夢――。
彼らにも、彼らなりの夢があっただろう。
されど、桃太達があの悪鬼達の悪業を止めなければ、いったいどれほどの命が失われ、血が流れたかわからない。
「わかって欲しい。オウモと〝前進同盟〟が目指す目的に一分の理があろうとも、彼女達が手段を間違えた。少なくとも商売相手を選ぶべきだった。クマ国が地球諸国との国交正常化を目指す以上、反対派を説得するためにも決着をつけねばならんのだ。でなければ、最悪の場合、クマ国と地球、両世界が衝突する異世界大戦にもつれこむ」
桃太は、カムロの真剣な声色に対し脳内をフル回転させて――。
(セグンダ。石貫満勒。炉谷道子さん、そして黒騎士。俺は彼らを止められるか。いや、止めなければならないんだ。元勇者パーティ〝C・H・O〟の時と同じだ。不戦同盟の期間が終了した瞬間に交渉に持ち込んで、可能な限り被害を最小限に抑える)
正面から向かい合って、力強く頷いた。
「わ、わかりました。次、オウモさんに会った時、なんとか説得してみます。そ、そうだ。逆にクマ国側から地球へのクレームはないのですか?」
「それが、あるんだ。先日もヒメジの里のコウエンから猛抗議があったのだが……」
桃太が話を転換しようとしたところ、カムロは近くに置いてあった風呂敷包みから更なるモノクロ写真を取り出して、見せてきた。
ヨーロッパ人らしい一団が田園地帯でポーズをとる一枚目から始まって、バケツに入った生き物を投げる二枚目、ドラム缶入りの汚物のようなものばら撒く三枚目、最後に田畑を踏み荒らして暴れる四枚目と、剣呑な写真が目白押しだった。
「地球諸国がクマ国との交渉に外交官を派遣した際、同行した非政府組織だか、非営利組織だかの構成員が『機械文明に毒されていない環境を守らねばならない』と啓蒙者きどりで地球から内部空間操作鞄を持ち込み、田んぼにスクミリンゴガイという地球産のジャンボタニシを投げ入れたり、畑に発酵作業の終わっていない糞尿をばら撒いたりしたんだよ」
あとがき
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