第47話 〝鰐憑鬼〟ザエボスの脅威
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伏胤健造は、研修生仲間だった二〇人の生命を生贄に捧げることで〝和邇鮫の皮衣〟と一体化し……。
仰々しい冠のついた鬼面を被り、右半身が拳銃の付いた機械仕掛けのサイボーグ、左半身が鰐を連想させる異形という、悪魔めいた姿へと変貌した。
「伏胤、お前はなんてことをっ」
「この人殺しがああっ!」
「返して、私の友達を返してよお」
桃太は伏胤の凶行に我を忘れて衝撃波を撃ち放ち、林魚らもまた喉も裂けよと雄叫びをあげながら、岩石や〝鬼の力〟のエネルギー矢を叩きつけた。
「そんな技、もうきかねえよ」
されど、伏胤は左半身のワニめいたぶ厚い皮で受け止め、あっさりと無力化した。
「これがザエボスの、悪魔の力だ!」
更には鉄壁のワニ皮を分裂させ、長さ一〇メートルの鞭の如く伸ばし、研修生達を叩きのめした。
嵐の如く変幻自在に暴れる皮鞭の前には、桃太の拳は届かず、〝戦士〟の振るう岩石は割られ、〝黒鬼術士〟が発した鬼の矢すらも打ち消される。
「雑魚がイキがったところで、勇者にかなうわけねーだろうが!」
「こんのおおっ。うわああっ」
ザエボスの猛攻は凄まじく、〝巫の力〟や〝鬼の力〟で守られていても、焼石に水をかけるようなものだ。
青い枯れ葉が埋め尽くす山道が、瞬く間に鮮血で赤く染まる。
「くそっ。これじゃあ、〝生太刀・草薙〟も届かないっ」
伏胤は巨体から悪魔に変わり、身長こそ四メートルから二メートルに半減したものの、鉄壁の防御とリーチに勝る攻撃手段を得たことで、戦闘能力は二倍以上に膨れ上がっていた。
「怪我をした人はさがって。治療が終わった者と入れ替わりながら攻め続けるの。必ず癒すから、決して無理をしてはダメよ!」
教師である遥花は張間ら生徒達の死に涙を流しながらも、〝白鬼術士〟である祖平遠亜や、空飛ぶサメの紗雨らと共に治療して回った。
「伏胤君が言っているザエボスって、ひょっとしてサレオスのことかしら?」
「サメエ? 矢上先生は、あの怪物の名前を知っているサメ?」
「ええ。ザエボス、あるいはサレオスとは、西洋に伝わる〝ソロモン七二柱の魔神〟に数えられる、鰐に縁のある大悪魔のことよ」
「ワニ? クマ国じゃ、ワニは海を泳ぐサメのことサメ!」
遥花の率直な回答は、クマ国の住人である建速紗雨にとって衝撃だったらしい。彼女は呼び方の違いに混乱し――。
「サメ子。地球じゃあ、ワニといえば爬虫類なんだ。さしずめ〝鰐憑鬼〟といったところだろうよ。だが、クマ国に封じられていた鬼神具なのに、地球の〝あのバカも知らない〟悪魔の名前を名乗るのはおかしくないか?」
五馬乂もまた、双方の世界を知るが故に頭を悩ませて、黄金色の尻尾を丸めてとぐろを巻いた――。
「なるほど、鰐の憑いた鬼、ザエボスか。それがどうした! 俺達なら倒せる!」
「〝戦士〟は前に出て盾になれ。〝黒鬼術士〟は主砲だ。やっちまえ!」
その間も、元研修生達は攻撃を続行。桃太の宿す〝縁の力〟による支援と、林魚の指揮もあって、有効打こそ与えられないものの、拮抗状態へと持ち直しつつあった。
「ああもう、ウゼエ。そうかザエボス、お前も空腹なんだな。もう男も女も関係ない、犯して殺して食らってやるよお。鬼術・三〇連魔団砲!」
伏胤健造が変じた悪魔ザエボスは、冠の付いた鬼面を歪めて笑みを作り、左半身が変化した異形鰐の前足で機械仕掛けの右半身を支えながら、拳銃から銃弾を嵐のように擊ちだした。
あとがき
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