第483話 勇者パーティ蜂起後の、地球日本の現状
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「さて、桃太君。二人だけだから、堅苦しい前置きはなしにしよう。茶と羊羹を用意した。地球日本のことが心配だろう? 冒険者パーティ〝W・A〟が、クマ国に向かって旅立った七月一二日からの約一ヶ月間、何があったのか。こちらが把握した情勢を伝えるよ」
「ありがとうございます。リウちゃんや栄彦さんが、日本の無事を伝えてくれたのですが、六辻家と〝SAINTS〟、七罪家と〝K・A・N〟がクーデターを起こした後、詳しいことはまるでわからないんです」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、牛の仮面を被った足の見えない白髪の老人、カムロに対して頭を下げた。
「そうだね。まず桃太君達がクマ国に向かって旅立った翌日の七月一三日なんだが、日本の冒険者を束ねる組合代表の獅子央孝恵がとんでもない奇策に出た。クマ国に背いた反政府組織〝前進同盟〟と和睦し、一時的な協調路線をとったんだよ」
カムロは会見の為に着込んだ、黒染めの絹糸で裁縫された紋付袴の袖に注意しながら、茶室の文机にホバーベースの映るモノクロ写真を置いた。
「そう言えば、乂が鬼術を使う写真撮影が流行していると言っていました……。遠目だけど、この特徴的な鎧姿は間違いないっ。オウモさんや黒騎士が味方についてくれたんですか!?」
桃太は歓声をあげたが、カムロの声は平坦で、両者の声色はおよそ対照的だった。
「ああ。クマ国としてはあまり歓迎できないことだが、この同盟には効果はあったよ。クーデター軍はあてにしていた〝前進同盟〟の支援を得られず、財政難で準備不足のまま反乱を強行――。八月七日に日本政府に宣戦を布告し、警察署襲撃や銀行強盗という凶行に出たものの、冒険者パーティ〝W・A〟の別働隊や、勇者パーティ〝N・A・G・A〟の活躍で阻止に成功した」
次にカムロが見せてくれた写真には、四鳴家とテロリスト団体〝S・E・I〟との戦いの折に力を貸してくれたベテラン冒険者や、桃太の頼れる相棒、五馬乂の弟が戦う姿が写っていた。
「幸保さんや碩志君達が、日本を守ってくれたんだ!」
「うん、桃太君には頼れる同志が居る。それは素晴らしいことだ。彼らの活躍で、七罪と六辻は地球日本での勢力拡大に失敗し、地球外での活動に注力することに決めたようだ」
カムロが茶碗に口をつけると、そよ風が吹いて風鈴がちりんという音を立てた。
「知っての通り、七罪業夢は〝K・A・N〟の精鋭を率いてクマ国ヨシノの里を秘密裏にのっとろうと試みた。しかし先日、桃太君が見事に捕縛してくれた」
「はい。お役に立てて良かった」
桃太は羊羹を摘む。彼の心の満足に比例するかのように、菓子は甘かった。
「一方、六辻剛浚は異界迷宮カクリヨ内部に築いた拠点、〝三連蛇城〟に〝SAINTS〟の戦力を集結させていたが……。八月一〇日に、オウモが支援した新パーティ、石貫満勒率いる〝G・C・H・O〟が先陣をきり、縫い止めたようだ。本城の〝獰蛇城〟こそ健在だが、支城は次々と陥落し、逮捕も時間の問題だ。前二回のクーデターと比較すれば地上の損害も少なく、孝恵も胸をなで下ろしていることだろう」
「ああ、良かった。第三のクーデターは早期に終わりそうなんですね。戦った時は苦しかったけど、オウモさんや黒騎士、石貫満勒が力を貸してくれるなら、こんなに心強いことはない」
桃太はニコニコと喜んだが、カムロの顔は渋いままだった。
「桃太君、今の状況は良くないんだ。なぜなら反乱を起こした六辻家と七罪家が潰える今、日本政府とクマ国共通の懸念となるのは、地球にも多大な影響力を持ちながら、コウモリのようにフラフラと陣営を変える、クマ国の反政府団体〝前進同盟〟だからだ」
あとがき
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