第480話 混沌の戦場
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ベテラン冒険者達が分身術に戸惑い、どれが本物か迷った瞬間。額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は彼らの腕をからめとり、肩を掴み、脇に肩を入れて、水柱を伴う一本背負いや四方投げで川の中へと投げ入れた。
「「こ、こんなっ、うわあああ」」
桃太も敢えて水深の深いところを狙って暴漢達を投げ入れたため、大きな怪我はなかったようだが……。
元勇者パーティ〝K・A・N〟の破廉恥漢たちは、ふんどしを巻きつけた尻を川面に浮かべ、赤や青、緑の熱帯魚達につつかれながら川下へと流されていった。
「先生、大丈夫ですか。さあ、あっちへ行きましょう」
「と、桃太くん。ありがとう、助かったわ」
気丈な女教師も、ナンパといえど大勢の半裸男達に囲まれたのは恐怖だったのだろう。
「桃太くん、お姉さんも貴方のことを……」
遥花は震える手で桃太の手を取り、彼を後ろから抱きしめるようにして、赤らめた顔を鍛えられた背に埋めた。されど、わずかに漏れた内心は言葉に結ばれることなく、川音に紛れてしまう。
「いやっふう、さすが出雲サンだ」
「あ、あの二人、あれで付き合ってないとか嘘だろ」
「ひゅー、かっこいい」
惜しくも待ち合わなかったものの、遥花を心配して救出にかけつけた他の生徒達も、桃太の電光石火の如き救出劇を見て歓声をあげる。
「「「!?」」」
しかし、桃太と遥花が抱き合う光景は、一部の少女達に天地がひっくり返るような衝撃を与えていた。
「し、し、執事さんがあわわわわ」
赤い髪を二つのお団子状にまとめスクール水着を身につけた箱入り娘、六辻詠は、テレビのなかでしか見たことのない光景に腰を抜かし――。
「そっか。あにさま、最大のライバルは先生だったよ」
オレンジ色のフリルがついたビキニ姿の少女、呉陸羽は、ツインテールにまとめた山吹色の髪を掴んで、覚悟を決めたように頷き――。
「サメメメメ」
ラッシュガードを羽織り、サメの浮き輪を抱いた銀髪碧眼の少女、建速紗雨は、桃太と遥花の抱擁を見て絵画『ムンクの叫び』がごとき顔で言葉を失っていた。
「ボコボコ(リン、なにがおこってるんだぜ? ひきあげてくれ、息がもたない)」
その頃、桃太の相棒である五馬乂は「性交しないと出られない部屋」なんてものを作ろうとした咎で、温泉に沈められて泡をふき――。
『うーん。あの二人なら、推せるなあ』
乂の腰に縛られた〝鬼神具〟の短剣に宿る意思、ファフ兄は新たな推し活に開眼――。
「ここ、こ、これは、最低限必要なコラテラル・ダメージ。……どころか、限界突破のコロサレチャッタ・ダメージじゃないっ。もう紗雨ちゃんは投了した方がよくない?」
乂を温泉に沈めておしおき中の三毛猫に化けた少女、三縞凛音は友を想って膝をついた。
「つ、強すぎるっ。出雲以上に、先生がっ」
「そう、強すぎるのよ。今は教師と教え子だから、二人とも理性でギリギリでもちこたえているだけ。今のうちになんとかしないと、卒業と同時に即ゲームセットになっちゃう!」
「BUNOOO!?」
あとがき
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