第475話 幼馴染達の懸念
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「ハンっ。葉桜千隼よ、サアメの甘さは見ての通りだ。厳しい恋愛戦争を勝ち抜くことはできん。となれば、出雲桃太の心は必ず誰かの手に落ちる。なにを迷うことがある、奪い取れ、今は鬼が微笑む時代なのだ!」
「鬼が微笑む時代、ごくり。あわわわっ」
かつて異世界クマ国を侵略した鬼の首魁――八岐大蛇のエージェントである伊吹賈南に悪の道へ誘われて、レスキューと警官を兼ねる堅物の鴉天狗、葉桜千隼は目をぐるんぐるん回してパニック状態に陥っていた。
「うーん。あっちの檻付き天幕じゃ、伊吹さんが悪魔ごっこしてるけど、トラブルの種でも蒔きたいのかしら? でも、桃太君と葉桜さんがくっついても、悪いことにはならないでしょう」
三毛猫に化けた少女、三縞凛音は川湯の端につくった石造りの湯船でちゃぷちゃぷ泳ぎながら、未来予測可能な〝鬼神具〟たる義眼と義耳で賈南と千隼を観察していたものの、特に止めようとはしなかった。
「それより問題は紗雨ちゃんよ。正直、ワタシの目で未来を予測しても、彼女の勝ち筋が見えないわ」
異世界クマ国の代表、カムロの養女である建速紗雨は、地球日本で最も新しい勇者と謳われる出雲桃太に想いを寄せているし、桃太もまた紗雨を大切に思っている。
にもかかわらず、二人の関係は半年以上にわたって空回りに終始していた。
「シャシャシャ。相棒は無駄にモテたいオーラを出しているというのに。ひょっとしてオレの幼馴染って弱すぎ? サメ子の恋愛力はゼロ?」
桃太の相棒であり、水着代わりの赤い褌をはいて湯治中の金髪少年、五馬乂は、凛音とは交際関係にあるため……。
額に十字傷を刻まれた少年と、もう一人の幼馴染である銀髪碧眼の少女の関係が一向に進行しないことに呆れ、無事な左手で温泉につかる凛音を支えながら、骨折した右腕を困惑気味に天にかざした。
『推しの桃太君が恋愛するとなれば、ボクの心も喜びと悲しみの二律背反に引き裂かれそうだけど、正直なところサメの子は安全そうだね』
紗雨の弱腰と、桃太への空回りぶりといったら――。
乂の腰に結ばれた短剣に宿る意志、八岐大蛇・第五の首である隠遁竜ファフニールまで憐れむくらいだからいただけない。
「シャシャシャ……。トラストミー、リン。オレは桃太の相棒としてサメ子の幼馴染として、このピンチを乗り越えるとっておきの腹案があるんだ。幸いカムロのジジイもいないし、屋敷の結界をチョチョイと操作して、〝性交しないと出られない部屋〟みたいな仕掛けをつくって、二人を放り込んでくるぜ!」
「ニャ?」
『ハ?』
しかしながら、乂の残念さもまた紗雨の迷走ぶりと、どっこいどっこいだった。
「ニャホー(うっかり予測したら、他の子たちも突撃して、爛れてえらいことになるピンクな未来が見えたわよ。なんてモノを見せてくれるの!?)」
『相棒力が激減しているぞ。言いたくないが、乂、お前、そろそろボクに席を譲れ!』
「オーマイガ、うわああ何をする?」
乂は三毛猫と勝手に動く短剣にしばかれ、温泉に頭から叩きこまれて行動不能に陥ったが、桃太や紗雨を遠目から見守っているのは彼らだけではなかった。
「遠亜っち、アタシも出雲と一緒にいたいけど、今はタイミングが悪いかなあ」
あとがき
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