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第474話 恋のかけひき

474


「直接顔をつけると水、いえ、お湯がいつもと違う匂いがして、びっくりしましたの」

「温泉だから、硫黄いおうの匂いがするのかな? ゆっくりでいいから慣れていこうね」


 額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太いずもとうたが手を握ったまま優しく導くと、赤い髪を二つのお団子状(ダブルシニョン)にまとめ、紺色のスクール水着を着た少女、六辻詠ろくつじうたはおそるおそる川の中に顔をつけてくれた。


「はち、きゅう、じゅう。よし、よく頑張った」

「ぷはあっ?」


 詠は、体のラインが出るぴっちりとした生地を押し出す胸をゆらしぜーはーと深呼吸しながらも、名残惜しそうに桃太の手を離す。


「桃太お兄様、ウチも手を握ってくれますか?」

「うん、じゃあ、やってみよう」


 桃太は次に、山吹色の髪を二束に結びオレンジ色のフリルで飾ったビキニを着た呉陸羽くれりうの手を握り、顔を水面につけるよう促した。


「て、照れちゃいます」

「大丈夫、ちゃんと握っているからね」


 桃太は穏やかに微笑みながら、陸羽が手を外すまで待つことにした。

 しばらくすると自分から手を放してくれたので、そっと山吹色の髪を撫でた。


「サメエエ。詠ちゃんも、リウちゃんもズルいサメっ。抜け駆けサメエエ」


 先ほどまで一緒に入浴していたのに一人だけ仲間外れになってしまい、桃太が詠や陸羽と過ごすのが羨ましかったのだろう。

 デフォルメしたサメの浮き輪を持つ銀髪碧眼ぎんぱつへきがんの少女、建速紗雨たけはやさあめはもっと自分に構ってとばかりに三人の間に飛び込もうとした。


「サメメメ。桃太おにーさん、紗雨にも泳ぎを教えて欲しいサメエ」

「あ、紗雨ちゃんも来てくれんだ。泳ぐの得意でしょ。俺と一緒にコーチをやってくれる?」

「はあい。わかったサメエ。あっちで泳いでいるお魚に勝てるくらいになっちゃうサメエ! あれ?」


 紗雨はおしゃれで浮き輪を持っていたものの、水の中で泳ぐのは勿論、泳ごうと思えば空や地面の中でも泳げるため、いまさら水泳を学ぶというのはいくらなんでも無理があった。


「紗雨ちゃん、たすかりますわ」

「ありがとう。手伝ってくれるんだね」


 詠と陸羽が無邪気に喜んだため、紗雨はなし崩しで助手役を引き受けてしまう。


「平泳ぎのやり方はこうで、その調子その調子。どうしてこうなったサメエエ」

「さすが紗雨ちゃん、教えるのが上手いね!」


 そんな桃太と紗雨を――お尻と胸が丸出しのヒモみたいな水着を着たが故に捕まった少女、伊吹賈南いぶきかなんと、彼女を公然わいせつ罪の現行犯で捉えた鴉天狗からすてんぐの少女、葉桜千隼はざくらちはやが天幕の中からそっと気配をうかがっていた。


「ひ、姫様。勇気を出したのになんて不憫な……」

「おやおや葉桜千隼、お前はサメ娘に遠慮しているようだが、お前も出雲桃太のことを憎からず思っているのだろう」


 賈南は、桃太にフラれた唯一の人物であるにもかかわらず――。

 真っ赤な舌で妖艶な唇を濡らして、挑発するように長い前髪の下で揺れる千隼の瞳を覗き込んだ。


「そ、それはそうですが、私は紗雨姫の臣下です」

「ハンっ。葉桜千隼はざくらちはやよ、サアメの甘さは見ての通りだ。厳しい恋愛戦争を勝ち抜くことはできん。となれば、出雲桃太の心は必ず誰かの手に落ちる。なにを迷うことがある、奪い取れ、今は鬼が微笑む時代なのだ!」

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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[一言] >奪い取れ、今は鬼が微笑む時代なのだ! 鬼「自慢の色仕掛けとやらでドン引きされてるのに奪い取る気でいるよ、プギャーwww」
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