第46話 魔性変生
46
「俺から恐喝未遂の次は、イナバの里で放火強盗殺人か。犯罪者の癖に何が勇者だ。ぶっ飛ばしてやる!」
額に十字傷を刻まれた小柄な少年、出雲桃太は、全長四メートルに及ぶ伏胤健造の巨体にも怯むことなく、至近距離から殴り合いを始めた。
「出雲、おれも戦わせてくれ。伏胤、張間達の体はどうしたんだ?」
「ふん、そんなもの、食っちまったヨ。林魚、それより自慢のリーゼントが台無しじゃないか。まるで弱っちい、いいや、俺が強くなったのか?」
正気を取り戻した林魚旋斧もまた、〝和邇鮫の皮衣〟に仲間二〇人の生首を飾るという非道を見過ごせず、かつての不良仲間に戦いを挑んだ。
「皆っ、力を貸してくれ、伏胤を止めよう」
「「わかった出雲。うおおっ、やってやるぞ」」
林魚の部下だった九人の研修生も、それぞれ岩石を手に接近し、あるいは〝鬼の力〟が生み出す魔法で支援する。
「我流・長巻っ」
桃太は、右腕から二メートルに及ぶ衝撃波を生み出して、〝鬼の力〟の結晶たる、〝赤い霧〟と〝黒い雪〟の入り混じる伏胤の肉体に叩き込み――。
「「うおおおっ」」
続いて林魚ら〝戦士〟四人が岩石で殴りつけ、柳心紺を加えた〝黒鬼術士〟五人が放つ魔法の矢が着弾する――。
「てめえら、なにしやがる。GIYAAAA!?」
伏胤の巨体が爆発し、彼がまとう〝鬼神具〟、爬虫類の衣があらわになって、身長も一気に縮んだ。
「このまま押していくぞ!」
「出雲君と一緒だと、なんだか力が溢れてくるわ」
「張間君達は、わたしがリボンで守るわ。徹底的にやって!」
桃太はこの時、黒い瞳を青く輝かせ、異界より与えられた〝巫の力〟で、知らず知らずのうちに仲間の潜在能力を引き出していた。
一度は刃を向け合ったといえ、この場にいる全員が矢上遥花の薫陶を受けた、同門の弟子だ。
〝鬼の力〟による洗脳も解けたことで、研修生達は息の合った連携を発揮。
遥花のリボンが守護する友人達の首を避けつつ、赤い霧と黒い雪の巨人に怒涛の連続攻撃を浴びせかけた。
「クソが、クソがああ」
「センセ、センセ、センセエエッ」
さしもの巨体も総攻撃に耐えきれず、伏胤は二〇人分の首を飾り付けたままドウと倒れた。
「やったか!?」
「白鬼術やC・H・Oのサイボーグ技術を使えば、首だけでも助けられるよね?」
林魚達は、仲間を助けられるチャンスを得たと歓声をあげたが――。
「まだ終わってない。目を離したらダメだ」
桃太は優勢ながら、妙に噛み合わない違和感を覚えていた。
「痛え、痛えよおお。この痛みは許せねえナア。〝鬼神具〟よ、力を寄越せええっ」
「和邇鮫の皮衣、だったか? 反応がおかしいぞ。総員、退避しろおっ」
桃太の警告と林魚の迅速な判断により、白兵戦を挑んだ五人は転がるようにして後方へ離脱。
伏胤が爬虫類の衣から生成した、木々をも切り裂く皮鞭の乱打から、紙一重で逃れることが出来た。
「ふひ、ザエ……ボス? そうか。お前はザエボスと言うんだな。いま、エサをくれてやる。契約は成立だ!」
「せんせ、れっとうせ、タスケ、AAAA……」
されど張間聡太ら二〇人の生首は逃げることも叶わず、遥花が守っていたリボンごと貫かれて八つ裂きとなり、生贄として捧げられた。
「舞台蹂躙、役名変生――〝ザエボス〟! 俺は最強のヒーローだあっ」
伏胤健造は、〝和邇鮫の皮衣〟と一体化することで……。
仰々しい冠のついた鬼面を被り、右半身が拳銃の付いた機械仕掛けのサイボーグ、左半身が鰐を連想させる異形という、悪魔めいた姿へと変貌した。
あとがき
お読みいただきありがとうございました。
ブックマークや励ましのコメント、お星様、いいねボタンなど、お気軽にいただけると幸いです(⌒▽⌒)