第464話 食後の一服
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「「ごちそうさまでした」」
西暦二◯X二年八月一四日の朝。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と、冒険者パーティ〝W・A〟がクマ国で最初に食べた朝食は、インパクト抜群ながら好評のうちに終わった。
「「え、片付けは旅館の人にお任せしていいの?」」
桃太ら焔学園二年一組の生徒達は、普段の授業とは違うお客様として扱われる対応に目を白黒させたものの、寝室の広間に戻って、思い思いの格好で休息を始めた。
「ううっ。破邪の梅干しの影響か、頭が痛い。これは迎え酒を飲まなければ……」
「なんかこう、急に恥ずかしくなってきたーっ」
「酒、飲まずにはいられないッ」
一方、二日酔いで顔が真っ赤になった呉栄彦や、糸鋸のような乱杭歯が目立つ痩せ男、索井靖貧、酒樽のように恰幅のよい丸顔の男、郅屋富輔ら、元勇者パーティ〝K・A・N〟の団員達は、梅干おにぎり事件で受けた衝撃のあまり、午前中から酒盛りを始めてしまう。
「栄彦おじさま。いけませんよ」
「いくら休暇といっても、皆さんもいい大人なんですから、朝酒はやめてください」
山吹色の髪を三つ編みに編んだ小柄な一年生徒、呉陸羽と、栗色の髪を赤いリボンでまとめた大人びた担任教師、矢上遥花が、あまりのだらしなさに思わず制止すると……。
「「はーい」」
カムロ特製梅干による破邪顕正の効果があったのだろうか? 駄目な酒飲み達も、意外と素直に引き下がった。
そして、邪気払いの影響が最も強かったであろう八岐大蛇の首の一人、伊吹賈南だが、深窓の令嬢の如き清廉な雰囲気は時間と共に消失し、小悪魔めいた従来の外見へと変わってしまった。
「サメー。賈南ちゃんの髪も、元に戻っちゃったサメー。きっと梅干を消化しちゃったんだサメエエ」
「効果時間みじかっ。おのれカムロ、もうちょっと夢を見せて欲しかったのおお」
サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨が櫛を手にすいたものの、水墨画のように艶めいた黒髪も、昆布を連想させるぬめっとした髪質に様変わりしている。
「サメメ? すけばすくほど賈南ちゃんの髪が絡まってくるサメ。ホラー映画サメっ!?」
「なにそれ怖い。え、妾の首までしまるの? だ、だれかたすけて」
「紗雨ちゃん、賈南さん、今助けに行きます」
「私も、あ、引っかかってコケー!?」
体質改善で元気になった反作用だろうか?
賈南の髪はあたかも自我を得たかのように四方八方へうごめきはじめ、紗雨と、近くにいた呉陸羽や六辻詠を巻き込んで巨大な毛玉になってしまう。
「「きゅう」」
幸いなことに、暴走はすぐおさまって全員が解放されたものの、その一幕は見るものを愕然とさせた。
「さ、さすが異世界。こんなこともあるんだな」
「浄化の力があんなに強いとは思わなかった」
「でもおれ達は変わってないぞ」
「なんとなくパワーは感じるけどね」
そして梅干の効果は個人差があるようで、桃太を含む焔学園二年一組の生徒には、ちょっと元気になる程度の影響しかなかったようだ。
そして休息をとって元気を取り戻すや、ムンムンと湧き出すエネルギーのあまりイタズラをしたくなるのが、年頃の若者という存在だ。
「せっかく集まったんだから、トランプでもやろうか?」
「いいね、いいね。ババ抜き、神経衰弱、それとも大富豪?」
「出雲。旅行先でやるなら脱衣麻雀一択だろう。カムロって人が色々と地球のテーブルゲームを用意してくれたらしい。宿の土産物コーナーで麻雀牌を買ってきた」
「フッ、日和るんじゃないぞ」
あとがき
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