第463話 邪気祓いの効果
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「初めて出会った時から誘惑するというのは、いくらなんでもやりすぎでした。妾と交換日記からはじめませんか?」
「賈南さんどうしちゃったの? 髪がキラキラしてるし、雰囲気がまるで水墨画みたいなんだけど!?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、八岐大蛇の首であるクラスメイト伊吹賈南が、異世界クマ国の代表、カムロ特製の梅干しおにぎりを口にするや、身にまとう気配が激変したことに度肝を抜かれた。
賈南の、普段は昆布めいて艶のない黒髪が墨のようなしっかりとしたコシの強さを得て、安物の化粧品を上塗りしすぎて荒れていた肌が自然な輝きを取り戻していたからだ。
「浄化がすぎて別人になってるサメエエ!?」
「オーマイガっ。もはや原型をとどめてないんだぜ。やっぱりカムロの梅干しはおかしいって!」
「コケーっ。この一瞬でなにがあったんですの」
サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨と、金髪赤目の長身少年、五馬乂も賈南の変わりっぷりに驚き慌て、何事かと訝しんで駆けつけた赤いお団子髪の少女、六辻詠を巻き込んで尻餅をついた。
その結果、二人による桃太の拘束が外れたのである。
「カムロさんのおにぎり、面白い!こうなったら俺も食べないと!」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は怖いもの知らずというか、髪質の変わった賈南や、歯並びが急に良くなった索井靖貧、老廃物が排出されて健康状態が向上した郅屋富輔などを見て、ウキウキでカムロお手製のおにぎりを口にした。
「「出雲も食べちゃったああ!?」」
桃太の電光石火の踏み込みには、焔学園二年一組の生徒全員が惨劇を想定して顔を覆った。
「あ、相棒を守れなかった……」
「サメー、なんてことサメー」
「ニャン(カムロさんに悪くない?)」
カムロをよく知る、乂、紗雨、三毛猫姿の凛音は戦々恐々としながら桃太の様子を窺ったが――。
「あ、おいしい」
桃太は普通に食べてしまい、別段変化はなかった。
「「マジか!?」」
乂と紗雨を除く他の生徒達も、桃太の真似をしておそるおそる口にする。
「ちょっとしょっぱいけど、大丈夫ですね」
「びっくりしましたが、」
「伊吹さんがぶっ飛んでるのはいつものことだし」
「コケー」
「桃太おにーさまも食べたし大丈夫かな」
その結果、生徒達の七割は、特に問題なく食べ終えることができた。
「「ぎゃあああっ!?」」
しかしながら。
「あばっ、あばば」
「し、舌に火がついたみたいだ」
「み、みずうう」
「二日酔いにはガツンときたよ。リウは蛇髪鬼ゴルゴーンに変身した時に、一度祓われているからだろうなあ、あの演奏と同じかあ」
林魚旋斧、関中利雄、羅生正之、呉栄彦ら二割は、賈南や〝K・A・N〟の団員達ほどに劇的な反応を示すことはなかったものの、ひーひーと悲鳴をあげることになった。
「サメメ、ジイチャンにしては、被害が控えめサメ。明日はきっと槍が降るサメ」
「ジーザス! どんな反動があるのか、オレはあとが怖いっ」
「ニャー(猫に梅の種は危険なので、念のためにやめておきます)」
また紗雨や乂、凛音といった一割は食べずに首を傾げたものの……。
「「ごちそうさまでした」」
冒険者パーティ〝W・A〟がクマ国で最初に食べた朝食は、インパクト抜群ながら好評のうちに終わった。
あとがき
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