第462話 カムロ特製、破邪の梅干し
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「「しょっぺーーー!」」
昆布のように艶のない黒髪の少女、伊吹賈南。
ノコギリのような乱杭歯が目立つ痩せ男、索井靖貧と、カエルのように恰幅のよい丸顔の男、郅屋富輔ら、元勇者パーティ〝K・A・N〟の団員達は、カムロお手製のおにぎりを口にするや否や、全員が即座に絶叫してぶっ倒れた。
「嫁がマズメシなのは知っていたが、旦那のスサノオまでもかっ」
「漬け物でマズメシとか聞いたことねーよ」
「見誤った。これがクマ国……」
賈南、索井、郅屋らは、なんとか起きあがろうと手足をばたつせるものの、遂には泡をふいて力尽きる。
「だから言わんこっちゃない」
「サメ映画のプロローグで犠牲になる、イチャイチャカップルばりのお約束サメー」
金髪の長身少年、五馬乂、サメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼の少女、建速紗雨は、こうなると思っていたとばかりに頭をかかえる。
「うそ、だろうっ。まさか一国の代表が、本当に毒を入れたのか?」
「毒じゃなくて薬サメー。爺ちゃんお手製の梅干しは、疲労回復と邪気祓いの効果があるサメ。それはそれとしてしょっぱいんだサメー」
「前から減塩してハチミツかけろって、アドバイスしているんだが、あのジジイは頑固だから聞く耳もたねえんだぜ!」
広い食堂といえ、一〇〇人を超えるメンバーが床に寝そべって、びくんびくんとのたうつ様はあたかも煉獄のようだ。
「「……」」
しかし、そんな生ける死体のようだった彼らは、しばらくすると不意にスイッチが入ったかのように起き上がり周囲を見渡した。
「「ああ、世界はこんなにも美しかったのか」」
「「ええ!?」
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太と学友達が呆気にとられたのも無理はない。
彼や彼女達は、往年の少女漫画のようにキラキラと背景が輝き、目には星のような光が宿っていたからだ。
「思えば母ちゃんには顔向けできないことばかりしてきたな。地球に帰ったら、死刑になる前に謝らないと」
ボロボロと涙を流す索井は、特に矯正手術もしていないのに、乱れた歯の並びが整ってノコギリから糸鋸に進化していた。
「謝れるだけ幸せですよ。私の両親はすでに鬼籍に入っています。行けるならば、墓参りに行きたいものです」
郅屋の変化はより分かりやすい。
カエルのようなでっぷりした体格から老廃物が消えた結果、一割ほどしまって酒樽くらいに落ち着いている。
「「たとえ死ぬにしても、それまでは真っ当に生きていこう!」」
他のテロリスト達も〝鬼の力〟の悪影響か、それとも単に長年の不摂生が祟ったのか、曲がった背筋や、腰痛、扁平足などが改善されて、まるで人が変わったかのように涙を流した。
「出雲桃太。妾は間違っていました」
「へ? か、賈南さんっ」
そんな中で、梅干しおにぎりを食べた最後の一人、伊吹賈南はさらに劇的だった。
夜のネオン街を連想させる、いつものうさんくさい空気は何処へやら、あたかも深山幽谷のごときミステリアスな気配をまとった、儚げな美少女がペンとノートを手に桃太の元へやってきたのだ。
「初めて出会った時から誘惑するというのは、いくらなんでもやりすぎでした。妾と交換日記からはじめませんか?」
「賈南さんどうしちゃったの? 髪がキラキラしてるし、雰囲気がまるで水墨画みたいなんだけど!?」
あとがき
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