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第460話 目覚めの朝

460


「とほほ、ひどい目にあった」


 夜があけて、西暦二〇X二年八月一四日。

 額に十字傷を刻まれた少年、出雲いずも桃太とうたは、昨夜の枕投げ大会でヨレヨレになった夜着をたたんでジャージに着替え、洗顔に使う水を求めて旅館の中庭にある井戸へ向かった。

 

「シャシャシャ。相棒、昨日はよく眠れたかよ」

「ああ、体を動かしたおかげでぐっすりさ」


 桃太が汲み上げた桶の水で顔を洗い、歯を磨きはじめると、右腕を骨折した金髪の長身少年、五馬いつまがいもやってくる。

 桃太が相棒に見捨てられた怨みをぐっと飲み込んで笑顔で応えると、お腹がぐーっと音を立てた。

 担任教師の矢上やがみ遥花はるかが打ち合わせ先から戻り、枕投げ大会終了を告げるまでおよそ一時間。クラス全員を相手に逃げ回るのは、さすがに骨だったのだ。


「乂。そういえば、朝食はどうするんだろ。やっぱり、魚を釣るか木の実を採るのかな?」

「おいおい相棒、そりゃあ普段の授業だろ!」


 桃太の心配に対し、乂は杞憂きゆうとばかりにゲラゲラ笑ったが……。


「シャシャシャ。たとえ代表のカムロが三日間留守だからって、クマ国が日本からの使者に自給自足をお願いするわけにはいかないぜ。ちゃんと旅館を用意したんだ。五〇人分くらいどうにかなるって」

「でも、業夢さん達は一〇〇人いるよ」

「ダァムイット(まいった)! まさかの三倍に増えていたんだぜ……」


 予定されていた冒険者パーティ〝W・Aワイルド・アドベンチャラーズ〟のメンバーは、焔学園二年一組のクラスメイトを中心に五〇人あまり。そこへ逮捕したテロリスト団体〝K・A・Nキネティック・アーマード・ネットワーク〟のメンバーが一〇〇人以上も加わっている。


「といっても、乂の言う通り、異界迷宮カクリヨじゃないんだから、クマ国の山で勝手に狩りをしたり、海や川で漁をしたら怒られちゃうよね?」

「そこらへんはカムロが融通を効かせるだろうし、サメ子がいるから許可は出るだろうが、今の相棒は使者でサメ子のむこ……シャシャ。ともかく迷惑だからやめとけ、な」

「乂、よく聞こえない。声が小さいぞ」


 桃太と乂がそんな風にああだこうだ話し合っていると、いつもサメの着ぐるみをかぶった銀髪碧眼ぎんぱつへきがんの少女、建速紗雨たけはやさあめが二人の間に挟まるように飛び込んで来た。


「桃太おにいさん、ガイ。ぐっもーにんぐサメー。旅館の女将おかみさんが、教えてくれたサメ。今朝の朝食はおにぎりの立食パーティなんだサメー」

「へえ、いいアイデアじゃないか」

「ビュッフェ形式ならなんとかなりそうだぜ。……ウェイモーメントっ(まて)。おにぎりだって?」


 桃太がいつもの着ぐるみごしとはいえ紗雨から伝わってくる体温と吐息にどぎまぎしていると、乂は金色の前髪の下、赤い瞳をかっと見開いた。


「サメ子、教えてくれてありがとうよ。相棒、もし朝食に〝カムロおすすめ〟って書かれた梅干しがあっても、絶対に食べるんじゃないぞ」

「桃太おにーさん。これは大事なことなんだサメ。フリじゃないサメー」

「はい?」


 桃太は乂と紗雨の説明を聞いても意味がわからず、目を丸くした。


「「いただきまーす!!」」


 その後、冒険者パーティ〝W・Aワイルド・アドベンチャラーズ〟が案内された食堂では、鮭、おかか、昆布、ツナマヨといった定番の具材から、一手間工夫を凝らした変わり種の具材まで沢山のおにぎりが用意されていたが……。

 中には、『クマ国代表カムロお手製』とわさわざ立て看板がつくられた、一際目を引く梅干入りおにぎりの皿があった。

あとがき

お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] >『クマ国代表カムロお手製』 昆布「しまった、寝過ごして出遅れた!こんなゲテモノは無視しておいて……残ってるのは『全凄期姫将軍の手作りおにぎり』、『虎娘の全凄期の一品』?」
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