第458話 呉陸羽とのひととき
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「トータおにいさんは、隣の広間で陸羽ちゃんと仲良くしてるサメ。ぷーんだサメエ」
「ニャー(オ、オーマイガ)」
「リン、オレのセリフとるなよ」
さて、呉栄彦が調合した健康ドリンクで喝采を浴び、五馬乂が右手骨折にもかかわらず酒を飲もうと試行錯誤していた頃――。
額に十字傷を刻まれた少年、出雲桃太は、冒険者パーティ〝W・A〟の看病に飛び回っていた。
「柳さんも祖平さんもお疲れ様。消毒するよ」
「ア、アタシも? は、恥ずかしいね」
「や、役得……」
桃太は、サイドポニーの目立つ元気娘、柳心紺が腕に負った打撲傷を消毒し、瓶底メガネをかけた少女、祖平遠亜が太ももの傷に薬草をつけて包帯を巻く。
二人は顔を赤らめつつも、まんざらではない様子だった。
「皆さん、元気だしてくださいね。うち、がんばります」
そして、桃太の隣には、呉栄彦の親戚であり、もう一人の新規団員である、山吹色髪の髪を三つ編みに結った少女、呉陸羽が付き添って、救急箱を片手に治療に奔走していたのだ。
「あ、ありがとうよ」
「そこの怪我、上手く処置できなかったんだ。助かるよ」
「年下の世話になるのはこそばゆいが、感謝する」
前線を支えたモヒカンの雄々しい少年、林魚旋斧はデレデレと鼻の下を伸ばし……。
遊撃隊として負傷をものともせずに走った関中利雄や、術士隊を束ねて傷だらけになった羅生正之らも、可愛い年下女子の治療を受けて見るからに照れていた。
「早く元気になってくださいです」
陸羽の暖かな気風と、柔らかくて優しい笑みで、看病する様はあたかも聖女のようで、クラス男子達の熱い視線を集めることになった。
「四鳴啓介め、こんないい子を無理やり操ったのか」
「しかも鬼に変えようとしたのよ。助けられて良かった」
「神鳴鬼ケラウノスとの戦いは苦しかったし、二度とやりたくないけれど、意味はあったんだなあ」
そして陸羽の献身的な手当てと、悲惨な過去は女子達の保護欲もくすぐり、焔学園二年一組の研修生達全員が、彼女を猫可愛がりし始めた。
しかしながら、治療が一通り終わった後……。
「桃太お兄様。うちを撫でてくださいますか」
「うん、いいこいいこ」
桃太が陸羽を膝枕して撫でる光景を見て、男女問わず研修生達の目に炎が宿る。
「……嬉しいです」
「俺はリッキーに命を救われた。こんなことくらい朝飯前さ」
陸羽は、桃太が亡き兄、呉陸喜の親友だったという縁から積極的に甘えていたのだが、事情を知らない彼や彼女達が憤怒にかられたのも無理はない。
なにせ桃太ときたら、あっちこっちで女の子をひっかけてきた前例が山盛りなのだから。
「よし、旅行名物といえばあれだっ。枕投げ大会をやろうぜー」
「標的は出雲な。一番多く当てた奴が優勝だっ」
「こんないい子を誘惑するなんて許せないものね」
「はーい、リウはこっちね」
「え、おじさま?」
陸羽は栄彦によって、さらりと寝室をかねた広間から連れ出され……。
こんなときにブレーキになりそうな担任教師の矢上遥花は、旅館の女将達への礼のため席を外していた。
「遠亜っち、この戦い、負けられないね」
「そうだね、紗雨ちゃんも一緒にやろ」
「サメー、サメメー。詠ちゃんもやろうサメ」
「コケッ? 鬼ごっこみたいで楽しそうですわ。もちろんご一緒します」
「妾もやる。こういうの大好きじゃ」
あとがき
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