第457話 呉栄彦とアルコール
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冒険者パーティ〝W・A〟へ新たに参加したベテラン冒険者、呉栄彦は食堂で提供されるクマ国の酒がよほどに気に入ったのか……、右手にペンを握って書類作業に取り組みながら、左手には一升瓶を掴んで晩酌をはじめ、アルコールの匂いをぷんぷんさせ始めた。
「くーっ、仕事中に酒を飲む背徳感、たまらないね!」
「栄彦さん、生徒たちは未成年です。宿では大人として恥ずかしくない行動をお願いします」
「そうですよ、栄彦おじさま。家なら文句は言わないですけど、ここはお仕事場ですよ」
これにはたまらず、栗色の髪を赤いリボンでとめて、スーツの胸元を大きく押し上げた担任教師の矢上遥花と、山吹色の髪を三つ編みに編んだ親戚の少女、呉陸羽が苦言を申し出たが――。
「先生もリウも固いこと言うなよ。疲れを癒すにはやはり酒だ。この国法律だと一五才から飲酒も合法だし、なんなら生徒達にもおごろうじゃないか!」
酒が回って赤ら顔になった栄彦は悪びれずに、生徒達にまで飲ませようとする始末だった。
「やったあ、気前がいい!」
「話がわかるじゃないか、すんばらしい」
「さっすがベテラン冒険者、懐が深いや」
しかしながら、休暇に浮かれた生徒達は一斉に歓声をあげて、栄彦も胸を張って誇らしげな表情を浮かべた。
「そうだろう、そうだろう。もっと褒めてもいいんだよ」
「まったく頼れる助っ人がきたものだぜ。三日の間、カムロもいねーし、オレはクマ国人だ。おごりの酒ならいくらでもお相伴にあずかるぜ!」
そして、自他共に認める不良である金髪少年、五馬乂は、先の戦いで負傷した右腕を添木で固めながらも、一番槍はもらったとばかりに猛スピードで飛び出し――。
「ガイは骨折してるから、飲酒厳禁サメエエッ」
「ニャース!(ばかあ)」
サメの着ぐるみを着た幼馴染、建速紗雨によって即座に拘束され、三毛猫に化けた少女、三縞凛音にペチペチと肉球パンチを受けた。
「わかりました、栄彦さん。そうまで仰るなら是非もありません。次の定時連絡で特別顧問の獅子央孝恵様に報告しますね」
「おばさまに言いつけちゃおうっと」
「……待ってくれ、話しあおう」
そして栄彦もまた、同僚と親戚ならではの急所をつかれ、抵抗虚しく白旗をあげた。
「わかったわかった。薬効のあるノンアルコールカクテルにするよ。こういうのも得意なんだよ」
そうして栄彦は一念発起して、旅館から提供された柑橘類の果汁に、ショウガ、ヨモギ、リンドウに似た根菜や薬草を加え、健康ドリンクを作り上げ生徒達に振る舞った。
「おおーっ。酒が飲めないのは残念だけど、力が湧いてくる気がする」
「はれていた手足が綺麗になったよ」
「なんじゃ、髪にわずか艶が出てきたぞ。これは、昆布の汚名返上も夢ではないぞ」
すると、これが男女ともに大好評だった。
「シャシャシャ、いいなあ。よし、ここに酒を足すぜ」
「いい加減こりるサメ」
「ニャーッ」
なお、乂はしぶとく酒を飲もうとしたものの、利き手が骨折していては、紗雨と凛音がタッグを組んだ幼馴染コンビに叶うはずもなく、あっという間に縄でぐるぐる巻きにされた。
「あ、相棒、助けてくれ。って、相棒はどこだ?」
「トータおにいさんは、隣の広間で陸羽ちゃんと仲良くしてるサメ。ぷーんだサメエ」
「ニャー(オ、オーマイガ)」
「リン、オレのセリフとるなよ」
あとがき
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